2010-01-01から1年間の記事一覧

生物地理学の教科書

「Biogeography 3rd edition」出版からおよそ5年、はやくも4th editionが出版される模様です。 Lomolino、Riddle、Brownといった従来の著者に、「Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation」や「Journal of Biogeogaraphy」の編者でおなじ…

チェッカー盤分布をめぐる論争

島嶼生物地理学の理論を提唱し、群集生態学のリーダーシップをとっていたマッカーサー(Robert MacArthur)は、1972年にわずか42歳という若さで亡くなりました。 マッカーサーに強い影響を受けた研究者たちが集まり、1975年に彼に追悼の意を示し「Ecology an…

英文校閲のこと

最近の研究論文の多くは英語で書かれています。もちろん、私はネイティブでもないし英語を自由に扱えるわけでは全くありませんので、英語論文を書くというよりも、単語を記号のように連ねてなんとか文章らしくしている気がします。もちろん、ネイティブが書…

古典的な生態学の論争:密度依存性をめぐって

とある種の個体数密度(単位面積あたりの個体数)が増加すると、死亡率も上昇することを「密度依存(density dependence)」といいます。例えば、致死性の高い感染病は、密度が高いところほど感染が広まりやすく死亡率が増加することが予想されるでしょう。…

無限に増えない理由

ゴキブリ嫌いの人には申し訳ありません。熱帯生活でのゴキブリあるあるネタからはじめます。 原稿をプリントアウトすると圧縮標本ができた(プリンターに潜んでいた) 食べかけのスナックの袋から出てきた(封があまかった) 夜中に部屋でガが飛んでいるかと…

ラボランチ

研究室の先生が1ヶ月半ほどヨーロッパに旅立ってしまわれます。ということで、今日は皆の持ち寄りで昼食会が開かれました。 ピッツァ、餃子、パイ、ちらし寿司、イエローライス、サラダ、ケーキなど国際色豊かなランチで楽しめました。 スクミリンゴガイ(ジ…

論文の出版コスト

とある論文の出版に伴なうコストの請求書が出版社から届きました。開くと、1,549米ドル。日本円にしておよそ14万円!今流行りのiPadにして2台分。 内訳は、ページ超過チャージ879米ドル、カラーページチャージ439米ドル。別刷りは配布していないばかりかオー…

シタバチに発信機を装着

私の大好きな生態学者であるハインリッチ(Bernd Heinrich)*1は、マルハナバチの採餌行動を調べるために、自ら走ってハチを追跡したという逸話があります。 多くの植物のポリネーター(送粉者)であるハナバチがどの程度の採餌範囲を持っているのかは、昆虫…

海洋島の比較生態学

Perspectives in Plant Ecology, Evolution and Systematics という雑誌で、「Comparative ecological research on oceanic islands(海洋島の比較生態学研究)」というタイトルの特集号が組まれています。 Perspectives in Plant Ecology, Evolution and Sy…

外来植物の植栽から逸出するまで

外国産の樹木を公園や植物園などに植栽することは古くから世界各国で行われていることです。しかし、一部の種がそういった人工的な環境から逸出し、野外に定着します(参考:種苗会社と外来植物)。特に、熱帯の海洋島では、その逸出が頻繁に起こり、一部の…

夏休み

今週から夏休みに入ったようで、キャンパス内の学生の出入がずいぶん少なくなりました。近くのレストランが閉まったりしてけっこう不便です。また、日中も夏休みらしく日差しが強くなりつつあるようにも感じます。 研究室は休みになるわけではないのですが、…

全生物は単一祖先種から進化してきたか

ダーウィンの「種の起源」の訳本を読んで、考察の深さに大変感銘をうけたのは昨年末のことでした(参考:「種の起源」を読んで)。 特に最後に全生物の祖先種に関する考察は特筆すべきものでした。再度引用しておきます。 動物はせいぜい4種類か5種類の祖…

種苗会社と外来植物

外来植物はどのように持ち込まれ、定着するのか。人の活動が強い影響を与えているのは間違いないですが、具体的な活動を分析するのは重要なことです。 最も考えられる道筋として、園芸植物として売られ、野外へ逸出し定着することで侵略的な外来植物になるこ…

ハワイはうつも自殺も少ないか?

珍しく社会情勢の話題でも。 日本の自殺者数やその割合の2009年データが公表されたようです。 警察庁 平成21年中における自殺の概要資料(PDF) これによると、2009年の1万人あたりの自殺者数は25.8人でした。しかも自殺の原因で最も多かったのが健康問題…

除菌ハンドジェル

野外調査ではいろいろな生物に触れることでしょう。個人的には植物に集まる昆虫に関心があるのですが、動物の糞や死体に集まる昆虫も大好きだし、他にもカタツムリなんかをみるとついつい触ってしまいます。ただ、そんな手のままお弁当を食べるのはちょっと…

論文リジェクトの種類

論文を投稿すると、掲載不可(リジェクト)か、改定要求(レビジョン)か、そのまま受理(アクセプト)という結果が返ってきます。ただ、その境界は曖昧で、一旦リジェクトするけど、査読者の指示にしたがって論文をうまく改訂できたらもう一度再投稿しても…

外来植物ほど化学防衛力が強いか?

外来植物が新たに侵入した土地で繁栄する理由として、在来の植食者が外来種をあまり食べないということがいわれてきました(天敵開放仮説:参考:外来植物は在来植物より食べられにくいか?)。さらにより具体的にいえば、在来の植食者が(進化史上)これま…

種のプール

群集生態学において「種のプール(species pool)」という概念はとても大切です。いろいろな場面で重要になってくるので整理しておきます。 島嶼生物地理学でも、島に移住してくる種というのは、島から近い他の陸地の群集、つまり「地域の種プール(regional…

研究室旅行とピクチョナリー

あっという間に4月も終わりに近づきました。 そういえば昨年に学位をとったKさんが最近の日本で言えば特任助教(=任期付の教員)として研究室に復帰しました。卒業生を研究室スタッフとして呼び戻すというのは、日本の古典的な講座制研究室みたいでちょっと…

アリのいなかった島(4)種の同定

今日のセミナーはハワイのアリ類についての概説と、サンプルを使って同定をしてみようというものでした。 以前に紹介したようにハワイにはもともとアリが1種も分布していませんでした(同様にシロアリ、社会性ハナバチ、社会性カリバチも分布していない)。…

秘書の日

昨日21日は「秘書の日」でした。米国では4月の第4週の水曜日を「秘書の日」に定めているらしい(Wikipedia)。うちの先生はカードにみんなのサインをいれて、花と一緒に渡して日ごろの感謝の意を表していました。うちの研究センターの秘書さん(いわゆる事務…

ネガティブデータが出版されにくい理由

研究費やポジションをめぐる競争が激しい研究社会では、論文を積極的に出版することが強いられます。そのようなプレッシャーの中では、仮説にあったポジティブデータが出版されやすい傾向にあって、仮説にあわないネガティブデータは引用されにくいし出版さ…

アボカドとメガファウナ

ハワイに来てアボカド(avocado:Persea americana)をよく食べます。日本ではほとんど食べた機会がなくて、米国のカリフォルニア巻きと呼ばれるお寿司に使われる食材くらいの知識しかありませんでした*1。しかし、アボカドを使ったハンバーガーやサンドウィ…

ロコモコの起源

この間ビッグアイランド(ハワイ島)に行った時に飲食店でロコ・モコ(Loco Moco)を注文したら、とんでもない量が出てきて食べきれませんでした。こちらではメニューを見ただけでは量がわかりません。日本のように店頭に見本が置いてあるのは大変便利だと改…

カメハメハチョウの巣作り

ハワイにはさまざまな固有の昆虫が知られていますが、チョウはわずか2固有種しか知られていません。1種はハワイルリシジミでした。そしてもう1種はカメハメハチョウ(Vanessa tameamea)と呼ばれるアカタテハの一種です。 カメハメハアカタテハ (研究室のあ…

ゴンドワナのタイムカプセル:虫入り琥珀

米国科学アカデミーの紀要にエチオピアで発見された琥珀の論文が出ていました。 ナショナルジオグラフィック ニュースでもいくつかの記事に分けて写真入りで紹介されています。 「アフリカの虫入り琥珀:未知の品種」 「アフリカの虫入り琥珀:ゴンドワナ」 …

虫下しがダイコクコガネの減少原因か?

食糞性コガネムシ類、いわゆる「糞虫(ふんちゅう」は、私が昆虫少年の頃にはちょっとしたアイドル的な存在でした。 特に、「どくとるマンボウ昆虫記」にも登場するダイコクコガネとよばれる大型糞虫の雄には、カブトムシに勝とも劣らない立派な角があり*1、…

メクラヘビの生物地理

ナショナルジオグラフィック ニュースから 「新種のメクラヘビ、生息分布の謎に迫る」 ミミズそっくりの小型(せいぜい全長20cm)のヘビ、メクラヘビ類は、地表や地中にいるアリやシロアリの卵や蛹などを食べると言われています(もちろん人に危害は加えない…

島の種数平衡理論:独立した発見

日本人によって行われた独創的な研究が海外の研究者に無視されているという話はしばしば耳にする話です。昔は日本人は日本の雑誌に日本語で論文を発表していたため、海外の研究者はそれを見ることも読むこともできず、気づかれなかったと言っても良いでしょ…

絶滅種キイロネクイハムシの生態

この50年ほど生きた個体が日本から見つからなかったキイロネクイハムシ(Macroplea japana)は、最近の環境省のレッドデータにて「絶滅種」とされました。 絶滅を証明する難しさはありますが(参考:絶滅判定は悪魔の証明)、日本の甲虫採集家の多さや、近年…