絶滅種キイロネクイハムシの生態

 この50年ほど生きた個体が日本から見つからなかったキイロネクイハムシ(Macroplea japana)は、最近の環境省のレッドデータにて「絶滅種」とされました。


 絶滅を証明する難しさはありますが(参考:絶滅判定は悪魔の証明)、日本の甲虫採集家の多さや、近年の水生甲虫ブームでも発見できていないので、それなりの信憑性はあるのでしょう。


 かつて本州(千葉、神奈川、兵庫)や九州(福岡)のスゲなどが生える低湿地環境にて採集記録があるのですが、その生態はよくわかっていませんでした。ただし、近年、同属別種が北海道で見つかったり、外国での同属種の観察からおぼろげながらその生態が浮きぼりにされつつはありました。


 トキと同様に、キイロネクイハムシも中国には現在も生育しているようで、最近その生態の一端が報告されました(参考:トキはなぜ絶滅しなかったのか)。


 2006年-2008年の中国10省におよぶ91箇所の調査から、6箇所(湖北省 Hubei、湖南省 Hunan、貴州省 Guizhou)でキイロネクイハムシ(Macroplea japana)が確認された。成虫、卵、幼虫、蛹のいずれの発育ステージとも水中で確認された。成虫は主に水中の水草上で活動しているが、驚くと水上にでて飛び立ってしまう。卵はクロモなどの(沈水)葉間に産みつけられ、幼虫は葉を食べて育ち、3齢を経て葉上で蛹化する。


 野外で成虫および幼虫は9種の水草にて確認された。つまり、特定の寄主植物に依存しているわけではなかった。


クロモ(Hydrilla verticillata
セキショウモ属の一種(Vallisneria spiralis
ミズオオバコ属の一種(Ottelia acuminata
アサザNymphoides peltatum
ササバモPotamogeton malaianus
センニンモ (Potamogeton maackianus
ヒロハノエビモ(Potamogeton perfoliatus
フサモ(Myriophyllum verticillatum
スズメノテッポウ(Alopecurus aequalis


文献
Zhang J et al. (2010) Biology, distribution, and field host plants of Macroplea japana in China: An unsuitable candidate for biological control of Hydrilla verticillata. Florida Entomologist 93(1): 116-119.
(本文、分布図、生態写真とも無料で見られます)


 論文ではどのような生育環境で調査されたのか詳細は記されていません。しかし、近年米国などで侵略的な外来種として問題になっているクロモの天敵(つまり植食者)を調査する目的があったようで、クロモが生育するような湿地やため池(または湖)と言ってよいでしょう。


また、水草に詳しい人なら上の寄主植物のリストを見ればわかるように、日本でも低標高域(平地から丘陵地)のため池や湖に比較的普通に見られる種類が多いと思います。


つまり、キイロネクイハムシがいなくなってしまったのは、寄主植物が減ってしまったのが主要因ではなく*1、何か別の原因があるように感じます。


 島嶼生物地理学の理論に従えば(参考)、日本列島は島なので、大陸に比べて、個体群の数が少なく小さいこと(つまりそもそも絶滅する確率は相対的に高い)、そして淡水域というパッチ状(島状)の生息域であることが絶滅のしやすさに関係しているのかもしれません。水草でいえば、かつて同様に低湿地に生育していたムジナモも日本では(野生)絶滅してしまいました(大陸では今も生育している)。


 日本には他にもたくさんの水生昆虫がいるのに、キイロネクイハムシほど近年記録がない種類も珍しいので、何か特別に重要な減少要因があるのかもしれません。


 昔ネクイハムシ採集によく連れて行ってもらっていたので、キイロネクイハムシの生きた姿を一度は見てみたい。5mmに満たない小型の甲虫ですし、日本のどこかでまだ生息していると願っています。


参考サイト
Web版ネクイハムシ図鑑
日本のレッドデータ キイロネクイハムシ
キイロネクイハムシの標本写真

*1:ただし日本でも水草が生育するような環境が減り、いくつかの水草の種類では分布や個体数とも減少しているのは確かです。