オンラインでの研究活動

 世の中はすっかりオンラインでの講義やセミナー、打ち合わせ、会議が一般的になってしまいました。ずいぶん前からオンラインでのコミュニケーションは可能であったのですが、コロナ禍で対面が制限されるまではなかなか定着しませんでした。これは、ヒトは主に対面のコミュニケーションを通じて進化してきたことが原因だと思っています。

 

 オンラインでの活動が一般的になって改めて感じることは、研究活動はオンラインとの相性が極めて良いということです。去年の春に「画面を共有して議論」について紹介しましたが、この1年間で感じたオンラインでの研究活動の利点についてまとめておきたいと思います。

 

1)論文添削

 学生指導においても、共同研究においても、オンラインビデオシステム(ZoomやSkypeなど)を使って論文原稿を画面で共有しながら添削したり、改訂したりするのが非常に有用です。教育効果も(まだ実感はしていませんが)あると思っています。これは対面が制限される中で初めてやってみたわけですが、世の中が対面に戻っても、続けたい方法だと思っています。

 

2)議論

  これも対面が制限されて初めて試みましたが、非常に有効な方法だと感じています。何より、データ、図、写真、動画などをPC画面で共有して議論できるのは素晴らしいです。対面だと小さなPC画面を横からのぞくことになり、(ラップトップなどは横から画面が見えにくい構造になっているため)非常に見えにくいのです。オンラインで画面を共有することでそうした欠点が克服されたと言えるでしょう。ただし、2名で議論するのに有用ですが、オンラインシステムだと同時に発した声が聞こえにくいため、複数人の議論にはあまり向いていない可能性もあります。大人数の場合は、声の大きな積極的な人の意見が通りやすくなりそうで、いろんな人の意見を汲み上げられるような配慮が必要だと思います(例えば、司会の人が色んな人の意見を伺うなど)。

 

3)ソフトの使い方

 PC画面上でいろいろなプリケーションを立ち上げて、画面を共有しながら実演するのにも有用です。様々なソフトの使用方法がYouTubeなどの動画で解説されており有用ですが、リアルタイムでやるぶんそれ以上の効果があると思います。Illustratorを使ったイラストの描き方、Excelによるデータ整理・作図、Rによる統計解析、QGISの使い方などを講義やセミナーなどで実際に試みましたが良い感触でした。従来は、PCルームのような場所で大きなスクリーンに写してやっていたのですが、今後はオンラインが主流になってくるでしょう。ただし、参加者が多ければついていけない人が出るため、そうした人のフォローをどうしていくかも課題となるでしょう。

 

4)セミナー・学会発表

 セミナーや研究会・学会(年次大会)もオンラインでの発表・聴講の機会が必然的に増えました。オンラインで画面を共有して発表を聴くのは、対面の時とは違う効果があると感じています。良い点として、本来なら会場に行かなくてはならないところを家に居ながらにして聴くことができる点でしょう。特に地方で研究している人にとっては、東京や大阪で開催されることが多い研究会やセミナーに気軽に参加できるので大きな利点となると思います(海外での国際学会への参加も同様です)。また、ビデオをオフの状態にすれば人の目を気にせずにリラックスして聴くことができるのも良い点でしょう。さらに、スライドが見やすいことです。従来はフォントや図が小さすぎたり、会場の後ろの方からだと見えにくいことが多々あったのですが、オンラインだと画面いっぱいにスライドを引き伸ばせることができるので見やすくなりました。ただし、動画については視聴者の環境に大きく左右されるので、発表者の配慮がより必要になると思います。いずれにせよ、オンラインで良いプレゼンをするにはこれまでとは違う技術が必要とされると思います。

 また、セミナーや学会発表後の懇親会を楽しみにしている人も多いと思います。対面が制限される中ではそうした交流が難しいという側面もあるでしょう。ただ、この間参加した学会では、オンラインシステム(SpatialChatなど)を用いた懇親会が開催され、これはもうリアルな懇親会とほとんど変わらない印象を受けました。仮想空間(懇親会場)にアバター(参加者)がロールプレイングゲームのように移動可能で、参加者同士が接近すると会話が可能になるというもので、これはもう本当の懇親会のようでした。こういったシステムでポスター会場を作り発表を行っている学会もあるらしく、今後こうしたシステムがますます充実してくるように思います。

 

5)輪読

  英語の教科書の輪読や、論文紹介についても、オンラインの機会が増えました。興味ある分野ではある程度の人数が集まらないと一緒に輪読ができにくい雰囲気があります。しかし、オンラインだと参加者が一同に一箇所に集結する必要がないため、全国各地から参加者を募ることが可能になります。特に地方大学で研究している学生にとっては、学会やセミナーと同様に大きな利点となると思います。

 

6)講義

 オンライン講義の問題点が多数指摘されていますが、利点も多いと思います。1、2限など朝が早い講義にも寝起きで参加できることは利点の一つだと思います。オンラインでビデオオンが求められていないのであれば、身支も必要なく参加できるのは大きいです。これは講義を聴く学生、行う教員の両方にも言えることでしょう。

 もちろん、実験や実習では対面でないと利点がないものもあります。しかし、大人数の座学の講義を聴講するために朝の満員電車に乗って登校するくらいなら、午前中はすべてオンラインの座学の講義にするべきだと思っています。朝のオンライン講義後に登校できるくらいの時間を設けた上で、午後に実習や実験など対面が必要な講義を配置すれば良いのではないでしょうか。そうすれば、満員電車の軽減にもつながるように思います。今後は、オンラインと対面をバランス良く整えたカリキュラムになってほしいと願っています。

 

  以上、最近感じたことをまとめてみました。オンラインの技術は日進月歩。数年後、10年後にこの記事を振り返った時、どう感じるのか大変楽しみです。