種の絶滅は、その果たしていた生態系機能が消えてしまうこと意味しています。しかし、実際には生態系機能の消失は絶滅する前から起こっています。
熱帯、亜熱帯域に分布するオオコウモリ類(Fruit bats)は、植物の種子散布に重要な役割を果たしていると考えられてきました。オオコウモリは飛翔能力が高く多くの島に分布しており*1、島の生態系にとって特に重要です。しかし、島にすむオオコウモリ50種のち25種は絶滅の危機に瀕しているといわれています。
空飛ぶオオコウモリ(by Marion Schneider & Christoph Aistleitner)
トンガのババウ諸島(Vava’u Islands)に生息するトンガオオコウモリ(Pteropus tonganus)は、季節および生息場所によって個体群密度に大きなばらつきがある。オオコウモリが生息する8つの島において、オオコウモリの生息密度とその種子散布機能の関係を調べた(調査回数は場所あたり1-4回)。
オオコウモリの生息密度の指標として、オオコウモリの個体数(600m×40mのトランセクト上に日没前1時間にカウントされたオオコウモリの個体数)をエサとなる花や果実をつけた樹木の割合で割った値を使った。
オオコウモリによる種子散布機能を明らかにするために、調査場所に生育する樹木14種85個体の種子散布状況を調査した。調査木から45m離れた場所までの種子散布状況を連続3-5日間調査し、調査木から5mから45mの間に種子が見られた場合を散布されたと定義した。また、状況(糞、食べ跡など)から、オオコウモリ以外に、げっ歯類、ハト類、ヤドカリ類による種子散布であるかどうかを判断した。
結果、オオコウモリが調査された樹種のうち13種の最も重要な種子散布者であった(種子散布者のうちの91-100%)。5m以上散布された種子の割合(の中央値)は、オオコウモリ類の生息密度の指数が上昇するにしたがい増加した。しかし、種子散布された割合は、ある生息密度指数以下ではほとんどゼロで、一定密度指数以上ではじめて増加した。
つまり、オオコウモリは一定密度以上生息しないと、植物の種子散布者としてはほとんど機能していない可能性がある。
おそらく島嶼部ではかつてオオコウモリの密度は極めて高かったと考えられています。つまり、多くの植物と共生関係にありジェネラリストでもあるオオコウモリの減少は、多くの植物に影響を与えていると考えられます(参考:群集の入れ子構造)。
トンガのオオコウモリは比較的まだ密度が高く、種子散布としての機能を果たしていると考えられています。しかし、オオコウモリが少なくなってしまった他の太平洋の島々では、すでに種子散布者としての機能は失われている可能性は高いでしょう。
生物多様性の保全の究極的な目標とは、絶滅危惧種を救うだけでなく、それがかつて果たしていた生態系機能を回復させることかもしれません。