島面積と種間相互作用の関係

 大きな島には、小さな島よりも多くの種類の生物が生息しています(参考:島面積と種数の関係:メカニズムのまとめ)。外来種もまた大きな島には持ち込まれやすく定着しやすい可能性が指摘されてきました(参考:島が大きくなると外来種数も増える)。つまり、大きな島では外来種が多く定着し、在来群集に深く浸透し相互作用に強い影響を与えているかもしれません(参考:ハワイの導入寄生蜂共生関係が外来種の定着を促進する)。


種数が多くなると種間の相互作用(例えば、食う食われる関係や、送粉者ー植物の共生関係など)の数も増加すると予測されます。さらに、相互作用数が増加すると、そのネットワークの構造自体も変化する可能性があります(参考:生態的ネットワーク)。ネットワークの構造は、相互作用の安定性(かく乱に対する頑強性など)と関連しています。


 島面積の増加にともなう(1)種間相互作用数の増加、(2)外来種との相互作用の割合の増加、(3)相互作用ネットワークの構造変化、以上3つの予測を検証するために、小笠原諸島の5つの島(面積:0.5 - 24km2)において、植物の花外蜜腺を訪れるアリの種数と個体数を記録した*。


 結果、アリ23種(外来20種)と花外蜜腺をもつ植物19種(外来5種)による122通りの相互作用(アリの花外蜜腺への訪問)が記録された。在来(固有)種のオガサワラオオアリがすべての島に見られ、多くの植物種の花外蜜腺を訪れるジェネラリストであったが、他の在来アリは少数の植物のみを訪れていた。しかし、アリ相に占める外来種の割合は高く、外来種を含むアリー植物相互作用の割合は82.8%にもおよんだ。また野外実験によって、オガサワラオオアリは植食性昆虫を攻撃し時に捕食することが示され、さらに外来アリの一部は花外蜜腺から在来種のアリを排除している可能性が示唆された。


つまり、小笠原諸島では元来、オガサワラオオアリが花外蜜腺をもつ在来植物と共生関係を築いていたが、現在は外来種によって強くかく乱されている可能性が高い。



花外蜜腺を訪れるアリたち
左:オガサワラオオアリ(在来種)とモモタマナ(在来種)
右:アミメアリ(外来種)とテリハハマボウ(在来種)



さらに3つの予測は以下のように支持された。

  1. 島の面積とともにアリおよび植物の種数が増加し、その相互作用の数も増加した(20-66)。
  2. 相互作用のうち外来種が含まれる割合も面積とともに増加していた(68.2-86.4%)。
  3. 相互作用からなるネットワークの結合度(Connectance:実際に観測された結合数を理論上可能な結合数で割った値)は、面積とともに減少していた(62.5-30.8%)。また、アリー植物の相互作用には入れ子構造(Nested structure)がみられ、この程度(Nestedness)も面積とともに減少していた。


 小笠原諸島では、大きな島ほど(人の定住が見らるため)外来種導入圧(Propagule pressure)が高く、外来種の定着に適した生息環境が多い。これらの要因によって、大きな島(導入圧が高い島)ほど種間相互作用に入り込む外来種が増えたと考えられる。


文献
Sugiura S (2010) Species interactions–area relationships: biological invasions and network structure in relation to island area. Proceedings of the Royal Society B, online published.


 さらにこの論文では、伝統的な「種数ー面積関係」から一歩進めた「種間相互作用ー面積関係(Species interactions - area relationship)」という捉え方を提示し、多様性創出メカニズムや外来種による影響を調べるのに役立つ可能性を論じています。


 論文発行元の英国王立協会が設立350周年を記念して、2月の終わりまですべての論文を無料で公開しているようです(上記の論文はココから)。よい機会と思い自身の研究紹介をしてみました。



小笠原諸島では、ハワイとは違い、在来(固有)のアリが種数は少ないものの分布しています。そのため、植物相にしめる花外蜜腺をもつ種の割合は7.5%と、他の熱帯地域(14.8-53.3%)よりも低い値を示していますが、ハワイ(1.2%)よりも高い値です(一部の種では花外蜜腺が消失した可能性が指摘されています)。


参考文献
Pemberton RW (1998) The occurrence and abundance of plants with extrafloral nectaries, the basis for antiherbivore defensive mutualisms, along a latitudinal gradient in east Asia. Journal of Biogeography 25: 661-668.


Sugiura, S et al. (2006) Loss of extrafloral nectary on an oceanic island plant and its consequences for herbivory. American Journal of Botany, 93 (3): 491-495.