侵入のパラドックス:在来種数が多いほど場所ほど外来種数も増える?

 さまざまな地域間で比較すると、在来種数が多い場所ほど外来種数も多い傾向があることが知られています。あれ?在来種が多い群集ほど外来種は侵入・定着しにくいのではなかったのでしょうか。実は、在来種数と外来種数の関係は複雑で、どの空間スケールでみるかで大きく異なってきます。


 在来種数が豊かな群集に外来種が侵入・定着しにくい現象は、生物的抵抗(biotic resistance)と呼ばれるメカニズムです(参考:外来種が定着する/しないメカニズム)。逆に、在来種が外来種の定着を手助けするという侵入促進(Biotic facilitation / invasion meltdown)も最近よく注目されています(例えば、在来の動物が、外来植物の受粉を助けたり、種子散布を助けたりする場合)。前者の考え方に従えば、在来種の少ない群集ほど外来種数は増加し(図a)、後者の考え方では逆に在来種の多い群集ほど外来種数も増加するということになります(図b)。



図. 在来種数と外来種数との関係 (a) 在来種数が多い場所ほど外来種数も多い (b) 在来種数が多い場所ほど外来種数は少ない


 図のように在来種数を外来種数の関係を調べると、空間スケールによって異なる結果になります。


まず、これまでの多くの研究から、1平方メートル(m2)未満の非常に小さな空間では、多くの研究で、在来種数と外来種数は負の関係にありました(図b)。つまり在来種数が豊かな空間では外来種数は少ない傾向にあるということです。


一方、、1平方メートより大きなスケールでの研究から、在来種数と外来種数には正の関係が見られるようになりました(図a)。30平方メートル以上の空間(最大は、州レベル100,000平方キロメートル)では、すべての研究事例で正の関係が見られました。つまり、大きな空間スケールでは在来種数が多いほど外来種数も多い傾向があったということです。


しかし、最初に生物的抵抗に気づいたエルトンは、熱帯など極めて種数の多い場所では外来種数はそれほど多くないことを指摘しています。実証的な研究はほとんどないようですが、ずっと大きな空間スケール(つまり、熱帯地域と温帯地域を比較するレベル)では、在来種数と外来種数には負の関係が再び出現すると予想されます(図b)。


 このように空間スケールによって、全く逆の関係が見られるのは何故なのでしょうか?


 一つには統計的な問題点が指摘されています。特に、1平方メートル未満の小さな空間でランダムな分布を過程した帰無仮説と比較した再解析では、在来種数と外来種数の負の関係は消失してしまうことがあるそうです。


 生態学的なメカニズムとして、在来種と外来種の相互作用(種間競争など)が重要とすれば、小さな空間スケールでの結果が示すように生物的抵抗が作用しているのでしょう。しかし、大きな空間スケールで逆に在来種による外来種の侵入促進が起こると推測するのは違和感があります。その矛盾を考えれば、むしろ大きな空間スケールでは相互作用よりも生息場所での環境的な異質性(多様性)が外来種の定着を促し、正の関係を生み出している可能性があります。


つまり、在来種であれ外来種であれ、多様な環境があればより多くの種が生息できるという同じ傾向を示しているにすぎないのかもしれません。


参考文献
Fridley JD et al. (2007) The invasion paradox: reconciling pattern and process in species invasions. Ecology 88: 3-17.


 特に分類群を限定せずに述べましたが、上記論文は主に植物を具体例として説明しているので、1平方メートルの草本群落や、地域の植物誌(大阪府や茨木県などのフロラ)といったスケールで考えてもらえばイメージしやすいかもしれません。