陸生のヒモムシ

 「むし」と聞けば、昆虫やムカデ、ダンゴムシといった節足動物を思い浮かべる人が多いでしょう。実際、最も種数が多いグループですし、陸上で目にする虫のほとんどは節足動物(門)です。しかし、他にも「むし」と呼ばれる動物門がたくさんいます。


その一つの例として、先日紹介したウズムシは扁形動物門に属する「虫」です(参考:陸生のウズムシ)。これは「蠕虫(ぜんちゅう)」の名残で「むし」と呼んでいるようです。ウズムシ類は水生生活を営むものが多い中、陸生に生息圏を広げたものとして「リクウズムシ」と呼ばれています。


同様に蠕虫で、紐形(ひもたがた)動物(門)Nemertea)というのがいます。一般には「ヒモムシ」と呼ばれており、多くは海産で他の動物を襲う捕食者です*1。ごく一部の種が陸生に進出し、「リクヒモムシ」と呼ばれています。リクヒモムシは、熱帯・亜熱帯の森林でしばしば目にします。日本では馴染みのない動物ですが、小笠原諸島には外来種として定着しています(オガサワラリクヒモムシ*2)。



オガサワラリクヒモムシ(つぶらな眼が・・・)


 小笠原では、日中は石や倒木の下に渦を巻いているのを見かけますが、夜間や雨上がりには地表だけでなく樹上で活動しているのも観察されます。葉上に徘徊しているのをみるとちょっと不思議な感じにとらわれます。



葉上で活動するオガサワラリクヒモムシ


 ハワイにも外来種としてヒモムシが定着しており、色や外見は非常に似ており、文献によると小笠原の種と同種とされています。ただ、少し雰囲気が異なる気もします。


 リクヒモムシの食性に関する知見は乏しく、飼育条件下での食性について報告されているだけです。その研究によると、さまざまな小動物(節足動物や軟体動物)を与えたところ、微少な陸貝(直径わずか1.1mmほど)のみを捕食したそうです。ただ、小型の節足動物を捕食していたという観察例も耳にしたことがあるので、その食性についてはもう少し調べる必要があるでしょう。


 ヒモムシもウズムシと同様、再生能力があり一部の断片から個体へと再生する能力があるのも特筆すべきものです。



ハワイで採集したリクヒモムシ(ちょっと雰囲気が違う?)


文献
Gerlach J (1998) The behaviour and captive maintenance of the terrestrial nemertine (Geonemertes pelaensis). Journal of Zoology 246:233-237.


 先日のニューギニアヤリガタリクウズムシがグロテスクな割に(むしろグロテスクだから?)そこそこ反響があったようなので、リクヒモムシの存在もお知らせしたくなったしだいです。

*1:ヒモムシとウズムシは一見似ているものの、ヒモムシは頭部に口(内蔵された口吻)がちゃんとあるのに対し、ウズムシは口が頭部になく腹部にあるのが大きな違いの一つです。

*2:小笠原にもともとすんでいたわけでもないのにオガサワラリクヒモムシという名前は紛らわしいですが、こういう和名はよくあります。