ハワイのキウイ:盲目のカモ?

 ニュージーランドの飛べない鳥キウイは、夜行性で視力はかなり弱く、嘴の先端にあるセンサーを使って餌を探してるそうです。そんな奇妙な習性をもつ鳥が、ハワイにもかつて生息していたのではないか、というお話です。


 ハワイ諸島は、世界でも最も多くの種の鳥が絶滅した島の一つです。18世紀にキャプテンクックが訪れた時には、すでに半分の種が絶滅していたと言われています。少なくとも1000年前にはポリネシアの人々がハワイ諸島に住みついていたので、その数百年の間に多くの種が絶滅したのでしょう。


ハワイ諸島のような孤立した海洋島ではしばしば飛翔能力を失った鳥類が知られていますが(参考:島の法則 巨大化した鳥たち)、これらはヒトや持ち込まれた捕食者によって真っ先に絶滅してしまいました。


ハワイ諸島では洞窟に残された古い地層から鳥の骨が比較的良い状態で発見されることが多く、絶滅鳥類がしばしば記載されてきました。中でも、去年カウアイ島(完新世後期の堆積層)から発見された頭蓋骨は驚くべき形態をもっていました。それは、ガンカモの新属新種(Talpanas lippa)として記載され、体サイズに比べて目が極めて小さく、視力がほとんどなかったのではないかと推測されているからです。


鳥類の視力はその飛翔能力と強い関係があるため、飛翔能力の低下とともに目の相対的なサイズも小さくなる傾向があります。形態とその推定生息環境から、本種も飛翔能力を失い思い森林内に生息し(おそらく陸生で泳ぐこともなかった)、夜間に活動していたのではないかと考えられています。


一般に夜行性の鳥類ではフクロウやヨタカのように目が大型化することが知られていますが、逆に小型化する場合もニュージーランドキウイカカポ(フクロウオウム)で知られています。


つまり、この飛翔能力と視力の両方を失ったカモは、嗅覚や体性感覚などを使って餌をとっていたと考えられ、かつてのカウアイ島でキウイのような生活をしていたのかもしれません*1


文献
Iwaniuk AN et al. (2009) Extraordinary cranial specialization in a new genus of extinct duck (Aves: Anseriformes) from Kauai, Hawaiian Islands. Zootaxa 2296:47-67.


参考サイト(記載のもとになった画像に加えて、復元?イラストが掲載されていてかわいい)
The little-known subgenre of Talpanas tribute art

 
 飛べず、かつ目も見えないカモがいたというのはちょっと信じがたいのですが、現存するキウイを考えれば、それに近い習性をもつ鳥がハワイにいたとしてもそれほど不思議ではないのかもしれません。あと、哺乳類(単孔類)ですがカモノハシも視覚ではなく嘴のセンサーを使って餌をとるので、あのカモに似た嘴からでも妄想するとちょっと楽しいです。

*1:もちろん、カモとキウイは系統的に全く関連がなく、似たような生態を持っていたかもしれないと推定されているだけです。