ハワイの生物

ハワイガラスの道具使用

最も有名な科学雑誌の一つ『Nature』誌で、個人的には最近おもしろいという記事はあまりなかったのですが、久しぶりに興奮した論文に出会えました。 以前に「島での道具使用と食性進化」という記事で、ガラパゴス諸島固有のキツツキフィンチとニューカレドニ…

ハワイのキウイ:盲目のカモ?

ニュージーランドの飛べない鳥キウイは、夜行性で視力はかなり弱く、嘴の先端にあるセンサーを使って餌を探してるそうです。そんな奇妙な習性をもつ鳥が、ハワイにもかつて生息していたのではないか、というお話です。 ハワイ諸島は、世界でも最も多くの種の…

陸生のヒモムシ

「むし」と聞けば、昆虫やムカデ、ダンゴムシといった節足動物を思い浮かべる人が多いでしょう。実際、最も種数が多いグループですし、陸上で目にする虫のほとんどは節足動物(門)です。しかし、他にも「むし」と呼ばれる動物門がたくさんいます。 その一つ…

陸生のウズムシ:最強の外来種?

プラナリア(ウズムシ綱 Turbellaria)は生物の教科書に頻出するため一般にもよく知られた扁形動物(Platyhelminthes)でしょう。体の一部を切断しても、その切断片から一つの個体に再生可能なことで知られ、このため生物実験によく使われているわけです。 …

ハワイビロウの多様性と絶滅の危機

南の島といえば椰子の木、ここハワイにも多くのヤシが生育しています。もちろん、ワイキキのビーチに生えているヤシは人が持ち込んできた園芸種です。ハワイには Pritchardia というヤシ科の属に23種もが分布しています。すべての種は一つの島ごとにしか見ら…

ハワイの野ブタ:生態系に及ぼす影響

野ブタとは、文字通り、人によって持ち込まれ野生化したブタです。 ハワイ諸島は18世紀終わりにキャプテンクックが発見する以前からポリネシアの人々が入植し生活してきました。彼らは、西洋人よりも前からハワイにブタを持ち込んでいました。初期にポリネシ…

ハワイミツスイ類が絶滅した原因

ハワイ諸島での絶滅や種の保全、外来種による影響などを語る上で欠かせない事例としてハワイミツスイ類があります。あまりに有名な話なので、これまで特別にとりあげてきませんでしたが、2009年に良い総説論文が出ていたのでそれを含めてざっと紹介しておき…

ハワイのエスカルゴ

久しぶりにハワイの外来生物についての話題でも。 ハワイの低地は年中温暖な熱帯地域に属するわけですが、オアフ島でも最高1000m、マウイ島で最高3000m、ハワイ島では最高4000mをこえる山があります。つまり、山にいけば熱帯というよりも温帯に近い気温にな…

外来植物の植栽から逸出するまで

外国産の樹木を公園や植物園などに植栽することは古くから世界各国で行われていることです。しかし、一部の種がそういった人工的な環境から逸出し、野外に定着します(参考:種苗会社と外来植物)。特に、熱帯の海洋島では、その逸出が頻繁に起こり、一部の…

アリのいなかった島(4)種の同定

今日のセミナーはハワイのアリ類についての概説と、サンプルを使って同定をしてみようというものでした。 以前に紹介したようにハワイにはもともとアリが1種も分布していませんでした(同様にシロアリ、社会性ハナバチ、社会性カリバチも分布していない)。…

カメハメハチョウの巣作り

ハワイにはさまざまな固有の昆虫が知られていますが、チョウはわずか2固有種しか知られていません。1種はハワイルリシジミでした。そしてもう1種はカメハメハチョウ(Vanessa tameamea)と呼ばれるアカタテハの一種です。 カメハメハアカタテハ (研究室のあ…

水陸両生のハワイカザリバガ

ハワイの珍奇なる虫たちシリーズの3回目でとりあげたハワイカザリバガ類(Hyposmocoma)ですが、続編が米国科学アカデミーの紀要に最近発表されたようです。 ハワイで数百もの固有種に分化したカザリバガですが*1、幼虫がカタツムリを食べる肉食の種類や、渓…

ハワイの都心部に見られる在来種

先週末に研究室のプロジェクトのアシスタントをしている院生の Ph.D. Defense(博士論文公聴会)がありました(参考:Ph.D. Defense の条件)。もうずいぶん公聴会を見てきたのでパターンはわかってきましたが、今回はちょっとした余興もありました。演者が…

アリのいなかった島(3)花外蜜腺を失った植物たち

アリは高緯度地域から低緯度地域にゆくに従い、種数だけでなく個体数も多くなっていきます。アリはシロアリと並び、熱帯の動物バイオマスの大半をしめる優占種です。アリの増加とともに、熱帯ではアリと共生関係をもつ植物が多くみられるようになります。そ…

固有種保全のための生物的防除

いわゆる古典的生物(的)防除(Classical Biocontrol)とは、農作物にとって害となる外来生物対して、その原産地から天敵を導入することでした。しかし、防除のために持ち込まれた外来の天敵が、標的となる生物以外の在来生物を攻撃するという問題点が繰り…

ハワイのファイトテルマータ

自然をどう観るか、という「自然観」は人によってさまざまでしょう。物理学者がみる自然と生態学者がみる自然では、おそらく同じものをみても全く異なった「もの」をみているに違いありません。 生き物のあり方をみる生態学者の自然観もまた人によって異なる…

ハワイトラカミキリの進化

ハワイ諸島では、ただ1種の祖先から多くの種に分化してきた動植物がいくつも知られています。キキョウ科のロベリア類(126種)、カタツムリのハワイマイマイ(100種)、ハワイショウジョウバエ(800種以上)、カザリバガ(350種以上)、ハワイメンハナバチ(…

ハワイの珍奇なる虫たち(8)樹上に進出したヨコエビ

先日夜間に調査する機会がありました。場所は、オアフ島の標高700mくらいの尾根部で、おもにオヒア(ハワイフトモモ)の低木林で構成される原生植生です。 懐中電灯でオヒアなどの樹冠部を照らして観察していると、ピョンピョンと跳ねる1cmも満たない「むし…

ハワイ大学発行の科学雑誌

ハワイ大学には、大学の教員が主な編集者となって発行している「Pacific Science」という雑誌があります。日本語に訳すと「太平洋地域の自然科学」とでもいいましょうか、動物学、植物学、分類学、生態学、地質学、海洋学、古生物学、考古学といった多様な分…

温帯からやってきた外来種

今日は研究室のMさんの博士論文公聴会(Ph.D. Defense)でした(参考:Ph.D. Defense)。ハワイの在来陸産貝類の保全や生態、外来種による影響についての研究です。 ハワイは常夏の島で知られるように、熱帯か亜熱帯に所属する温暖な島々です。一方で、ハワ…

アリのいなかった島(2)海鳥のヒナを襲う外来アリ

今日は午後に Ph.D. Defense(博士論文公聴会)がありました。 ハワイ諸島にはもともとアリがいなかったことが知られていますが、現在では多くの種が侵入し(参考)、在来生態系に影響を与えていると考えられています。その影響の一つとして、海鳥のヒナがア…

ゴミを食べるコアホウドリ

多様性の保全や外来種関係などでいつも参考にしているのが、Conservation Magazine の Journal Watch Online です。最近出版された論文をブログ形式で紹介しています。ナショナルジオグラフィックに比べて、保全などに関係したちょっと暗い話題が多いのです…

ハワイでキャンプ:絶滅種の再発見をめざして

ハワイマイマイ類(Achatinella)は約100種が知られていますが、その多くが絶滅したと考えられています。特にオアフ島はハワイマイマイの種数が多く(42種)、人による攪乱が最も大きいため、絶滅種(もしくはその絶滅危惧種)が最も多い島でもあります。 他…

コアは複葉と単葉をもつ:適応的な意義は?

ハワイの天然林を構成する樹種として、フトモモ科のオヒア(ハワイフトモモ Metrosideros polymorpha)とマメ科のコア(Acacia koa)が最も代表的です。いずれもハワイにのみ見られる固有種ですが、いずれの島にも分布し、少し山に入ればどこでも見られる樹…

ハワイから分散した植物

ハワイ諸島において、さまざまな生物群が多様に分化し、多くの固有種が生まれてきました。また、多様化した一部の種が他の太平洋の島々に渡り、さらに種分化して多様性が増加するというメカニズムが明らかになりつつあります。 ハワイで多様化したショウジョ…

ハワイの珍奇なる虫たち(7)陸生のヤゴ

ハワイには変わった昆虫がすんでいることが知られています(参考:ハワイの珍奇なる虫たち 1, 2, 3, 4, 5, 6)。そのきわめつけは陸生のヤゴでしょう。 ヤゴといえば、トンボの幼虫で、水の中で生活し、他の昆虫や小さな魚を食べたりする捕食者として知られ…

生物的防除が落とした影(4)ハワイでの是非をめぐって

害虫を防除するためにその天敵を放す生物(的)防除(Biological Control、Biocontrol)*は、ターゲットとしない種にまで影響を及ぼす可能性があります。特に、ハワイ諸島のようなもともと天敵が少ない環境下では多数の固有種が、生物防除によって放たれた…

御器被(ごきかぶり)

日本には、カタツムリを食べるマイマイカブリという甲虫がいます。「マイマイ(カタツムリ」を食べるときにその殻を被っているように見えることから、「マイマイカブリ(蝸牛被)」という名前ができたようです。 同様に、ゴキブリも「御器(ごき:食器)」を…

捕食性カタツムリ・ヤマヒタチオビ

低気圧(ハリケーン Felicia)の影響はまだ続いているようです。湿度が高くて、日本の梅雨のようです。しかし、カタツムリやナメクジたちにとっては絶好の天候で、屋外にはたくさんのカタツムリやナメクジが見られます(もちろん外来種ばかり)。特にアシヒ…

広東住血線虫は危険か?

外来種としてしばしば問題になるアフリカマイマイやネズミ類は、広東住血線虫(かんとんじゅうけつせんちゅう)の宿主にもなります。この線虫はアフリカマイマイやネズミ類の移出入とともにさまざまな地域に広がったと考えられます。 しかし、広東住血線虫が…