温帯からやってきた外来種

 今日は研究室のMさんの博士論文公聴会Ph.D. Defense)でした(参考:Ph.D. Defense)。ハワイの在来陸産貝類の保全や生態、外来種による影響についての研究です。


 ハワイは常夏の島で知られるように、熱帯か亜熱帯に所属する温暖な島々です。一方で、ハワイ島だと最高で4000mをこえる山もあります。オアフ島でも1000mをこえると熱帯というよりも温帯といってよいほどの気候です。ただし、低地と同じく年間の気温変化は比較的おだやかなので、温帯のような完全な冬というのもありません。


ハワイにはさまざまな熱帯性の外来種が侵入し生物相や生態系に影響を与えていることはこれまでも繰り返し述べてきました。しかし、そんな熱帯性の外来種の多くは、高標高地域に侵入できない場合が多く、在来生物相の多くはそういった高標高地域に残存していることが多いのです。これは、熱帯性種が温帯域に分布を拡大しにくいという「熱帯のニッチ保守性(Tropical Niche Conservatism)」に関連するのでしょう。実際、アフリカマイマイを防除するために持ち込まれ、主要島すべてに広がってしまった捕食性陸貝のヤマヒタチオビ(フロリダなど亜熱帯原産種)は、1000m以上の高標高域にはほとんど見られません。つまり、高標高域に在来の陸産貝類が残存しているわけです*。


 一方で、温帯からやってきた外来種もいます。ニンニクマイマイ(Garlic snail)と呼ばれる小型のカタツムリは、温帯のヨーロッパからやってきました。この種は、低標高から高標高(2000mまで)広く分布します。また、ヤマヒタチオビのような完全捕食性ではないものの、他の小型のカタツムリや卵を食べるため、在来陸貝類に影響を与えているかもしれません。


名前の通り、カタツムリに触れると、ニンニクのような臭いを出すので区別は容易です。写真はオアフ島最高峰のカアアラ山(1220m)で撮影したものです。



温帯(ヨーロッパ)からやってきたニンニクマイマイ(Garlic snail:Oxychilus alliarius


 Ph.D. Defenseでは、ヤマヒタチオビやニンニクマイマイによる影響だけでなく、在来カタツムリの生態系機能に関する研究も行われていて、論文が公表されるのが楽しみです。


 ちなみにPh.D.Defenseの流れを確認しておきます(これまで何度も見てきましたがハワイ大のスタイルはだいたい同じ)。(1)指導教員(Supervisor)による前説(この時、公聴会に来た候補者の家族を簡単に紹介、父母、配偶者、子供、時に祖父母まで・・・?)、(2)Ph.D.候補者の紹介とレイをかけてハグ、(3)候補者による発表、(4)質疑応答、(5)審査員数人との質疑応答(候補者以外は退室して行われる)、(6)構内でちょっとした打ち上げ、(7)夜は遅くまでホームパーティー、という流れです。


ちょうどスタンフォード大から今日のDefenseの審査にいらっしゃった日本人研究者のFさんとNさんにお会いしてお話する機会があったのは良かったです。公聴会でレイをかけてもらって発表するのはやっぱりハワイ固有らしい。また、家族が大勢で本土からこちらにやってくる、というのもハワイ大ならではかもしれません(まあ、ついでに観光もできるし)。


ともかくも、最後のホームパーティーまで参加すると、候補者でなくともと疲れ果てる一日なのでした。



*その他の事例として、ハワイミツスイ類が高標高域にのみ見られるのは、鳥マラリアを媒介するネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)が高標高域に分布拡大できていないからと言われています。