捕食性カタツムリ・ヤマヒタチオビ

 低気圧(ハリケーン Felicia)の影響はまだ続いているようです。湿度が高くて、日本の梅雨のようです。しかし、カタツムリやナメクジたちにとっては絶好の天候で、屋外にはたくさんのカタツムリやナメクジが見られます(もちろん外来種ばかり)。特にアシヒダナメクジの仲間は土の色とそっくりなので、踏まないように注意が必要です。


 さて、ハワイの固有カタツムリたちは、農業害虫であるアフリカマイマイを退治するためにフロリダから持ち込まれたヤマヒタチオビという捕食性のカタツムリによって大打撃を受けたことは以前にご紹介しました(生物防除が落とした影: 肉食のカタツムリ)。US Army(米陸軍)は、ハワイマイマイ類保全するために、ヤマヒタチオビを探索する犬を使ったりしながら、その駆除方法を探っています。もちろん、ハワイ大でもその行動を観察している学生がいて、ちょうどその捕食行動を見せてもらうことができました。



アフリカマイマイ(幼貝)を食べるヤマヒタチオビ(成貝)


 写真にあるように、ヤマヒタチオビは、餌の殻口から頭を突っ込んで直接食べます。通常は、自身より小さい貝を襲うので、もっと大きなアフリカマイマイの成貝を食べることは難しいでしょう。もちろん、ハワイにはヤマヒタチオビより大きな種類はほとんどなく、多くの種は容易に餌食になってしまいます。殻口から頭をつっこめないような小型の種類については、殻ごと直接捕食されてしまいます。


 このように、アフリカマイマイの幼貝を直接与えるとヤマヒタチオビは喜んでそれを食べます。このことから、ヤマヒタチオビを放せばアフリカマイマイを防除できると思う人がいるかもしれません。しかし、ヤマヒタチオビによってアフリカマイマイが根絶された例はありません。むしろ在来の陸貝類を滅ぼしてしまうのが問題なのです。


この原因として、防除対象となるアフリカマイマイの増殖力が極めて高い(一度に数百の卵を何度も産み、幼貝は1年以内に成熟)のに対し、島でのんびりと進化してきた固有種は増殖力は極めて低い(ハワイマイマイの一種では一度に1仔を産むだけで、幼貝が成熟するまで数年かかる)ことがあげられるでしょう。一度個体群が減少しはじめた固有種はなかなか回復しません。


 似た話としては、1910年に沖縄でネズミなどを防除するために放ったジャワマングースの例があるでしょう(ハワイでも同様にマングースが放たれ帰化しています)。マングースは確かにネズミを襲うかもしれませんが、より増殖力の低い在来動物への影響の方が大きいと考えられます。


 このような捕食動物の導入には、研究者が関わっていることもあります。直接関わっていなくても、研究論文をもとに発案、実施されることもあります。


ヤマヒタチオビがアフリカマイマなど害虫となるカタツムリを食べるからといって、放してはいけません。また、日本では勝手に飼育したり放したりすると罪に問われます(外来生物法)。


 一応念のために記しておきました。ちなみにヤマヒタチオビは、広東住血線虫の待機宿主にもなるので、何の解決にもならないどころか、問題は複雑化するばかりでしょう。



Oahu Tree Snails
ヤマヒタチオビの捕食行動(動画:1分35秒から2分46秒の間にあります)


上記動画からヤマヒタチオビの捕食行動のみを切り出した動画は下記サイトにあります
http://www.thewildclassroom.com/biomes/speciesprofile/rainforest/oahutreesnails.html


参考文献
Cowie RH (2001) Can snails ever be effective and safe biocontrol agents? International Journal of Pest Management 47: 23-40.