生物的防除が落とした影(4)ハワイでの是非をめぐって

 害虫を防除するためにその天敵を放す生物(的)防除(Biological Control、Biocontrol)*は、ターゲットとしない種にまで影響を及ぼす可能性があります。特に、ハワイ諸島のようなもともと天敵が少ない環境下では多数の固有種が、生物防除によって放たれた外来種に大きな影響を受けてきました(生物防除が落とした影 1, 2)。


しかし、天敵の定着と害虫個体群を低密度に抑えることに成功すれば、化学農薬とは違い、衛生的にも安全で、経済的にもコストを安く抑えられるという利点があります。また、天敵として導入されたマングースヤマヒタチオビは確かに在来種への強い影響が明らかにされていますが、昆虫ではそのような顕著な例はほとんど知られていません。カウアイ島で明らかになった導入寄生蜂の問題についても、1945年以降に放たれた寄生蜂が在来種に強い影響を与えている証拠はなく、つまりこの50年は適切な放飼ができているのではないかという意見がなされています。


近年では、寄生蜂の導入にあたって、特定の寄主(ターゲットとなる害虫)のみを攻撃するスペシャリストであることを確認し、在来種に対する攻撃性も室内実験で確かめられているそうです。


 以前の安易な導入による在来種への影響が明らかになって以来、ハワイ州においては生物防除のための導入を行う基準は非常に厳しくなっています。ハワイ州には毎年20種もの節足動物が(意図せずに)持ち込まれていると推定されているので、生物防除の利点を考えた上で、その実行可能性を再検討すべきという意見がなされています。


文献
Messing RH, Wright MG (2006) Biological control of invasive species: Solution or pollution? Frontiers in Ecology and the Environment 4: 132-140.


Messing RH (2007) Alien invaders in Hawaii: Prospects for remediation using biological control. Proceedings of the Hawaiian Entomological Society 39: 95–98.


 しかし、生物防除を行うべきだという応用昆虫研究者に対して、外来種問題にとりくんでいる保全よりの考え方をもつ研究者はこの意見には反対しています。


 アフリカマイマイを防除するためにヤマヒタチオビをハワイに導入したのは1950年以降ですし、ごく最近までハワイから太平洋の島々に公式にも頻繁に導入されてきた歴史があります(参考:生物防除が落とした影1, 3)。確かに生物防除の成功には劇的な効果が得られるものの、失敗に終わった時には悲劇が待ち構えているのではないだろうか、と反対しています。


文献
Holland BS et al. (2008) Biocontrol in Hawaii: A response to Messing (2007). Proceedings of the Hawaiian Entomological Society 40: 81-83.


 応用昆虫学の教科書には生物防除の成功例が事細かく記されていてその効果の重要性が説かれています。しかし、外来種問題・保全関係の分野では、生物防除の失敗が大きくとりあげられておりその危険性が説かれています。


特に、ハワイのような保全上重要な場所では、その是非についてもっと意見が交わされるべきかもしれません。


外来種の害虫を防除するためにその原産地から天敵を導入するのを古典的生物防除(Classical Biological Control)と呼んでいますが、ハワイでは生物防除といえばほとんどこれを意味しています。