著者数の多い論文ほど引用されやすい?

 論文が他の研究者によって読まれ、他の論文で引用されることが科学の健全な流れといえるでしょう。多くの論文に引用されるほどその論文の評価が高まり、執筆者の評価も高まるということになります。


 これまで、専門誌に論文が投稿された時、論文著者の母国語が英語でない場合に論文が受理(掲載許可)されにくい傾向や、男性より女性が執筆した論文が受理されにくいという傾向が報告されています(性別は関係ないという報告もあり)。では、出版された論文の引用についてはどのような傾向があるのでしょうか。


 生態学分野の6雑誌(Animal Behaviour, Behavioral Ecology, Behavioral Ecology and Sociobiology, Biological Conservation, Journal of Biogeography, Landscape Ecology)に1997から2004年の間に掲載された英語論文(5883本)を使って、(1)著者の人数、(2)第一著者の母語(英語か非英語か)、(3)第一著者の性別のいずれが論文の引用率(発表年および2年間の毎年の引用数)に影響を与えるが調べられた。


結果、(2)著者の言語、(3)性別間で、引用率に有意な違いはなかった。しかし、(1)著者の人数が増えるほど引用率が増加していた。


この結果は、著者数の増加で論文の信頼性の増加、多数の著者による自己引用の増加、知り合いが多いほど引用されやすい傾向などが関連しているかもしれない。


文献
Borsuk RM et al. (2009) The influence of author gender, national language and number of authors on citation rate in ecology. The Open Ecology Journal 2:25-28.


 つっこみどころが多そうな論文ですが、結果や解釈を読む限りはそれほど違和感のない結果でしょう。分野や技術が細分化されている現在、いろいろな人がデータ収集や解析にかかわるので、重厚な質の高いデータをともなう論文には多数の著者がかかわっている場合は多いように思います。それとやはり自分がかかわった論文は引用する傾向にあるので、著者数が増えるほど自己引用も増えるのでしょう。


 論文を書くときに、「何人の著者で書くか、そしてその順番は」というのはオーサーシップ問題としていろいろ議論があるところです。生態学分野では一般に、研究計画を立て、自らデータをとり解析し、論文を執筆した人が第一著者になります。その他は、貢献度の順に第二著者、第三著者となっていきます。研究プロジェクトのリーダーもしくは指導教員で、研究計画や論文のとりまとめに重要な貢献をした人がラストオーサーと呼ばれる最後に名前を刻み重要視する場合もあります。映画やドラマの出演者のテロップでも主人公やヒロインは最初の方、大物俳優は最後というのに似ているかも。


また、論文の責任著者(Corresponding author)と呼ばれるステータス(?)もあって、第一著者が兼ねる場合、第二著者が兼ねる場合、ラストオーサーが兼ねる場合などいろいろです。分野によっては、年齢・立場に従って求められる著者順、責任著者があるようで、多人数の著者が並ぶ場合にはもめることもあるそうです(解決策として、第一著者を二人にしたり、責任著者も二人にする場合などがあり)。もっと単純に、著者名をアルファベット順に並べたり、コイントスで決めたりする場合もあるようです。


 私個人が関わった論文では著者数は自身を含めて1人から7人で、最頻値は2人、次は3人、1人の順です。すべて第一著者が責任著者を兼ねています。個人的には、2、3人で研究をやる方が、研究の打ち合わせや論文のやりとりなどがスムーズにいくように感じます。逆に1人で論文を書くときは、ちょっと不安で寂しいし、他の共同研究に比べてまとめるのが遅れてしまいがちです(自分に甘いから?)。5人以上の著者がいる論文*では、それこそ、多数の意見をまとめたり小まめに催促したりする必要があり(私は気が弱いので苦手)、そういった論文の中心になってたくさん書いている人は、社交性・リーダーシップなどに長けているように思います。


研究者といえば、一人でコツコツと実験をしたり論文を書くイメージがありますが(もちろん必須な作業ですが)、これからは知的好奇心に加えて社交性があり、リーダーシップを発揮できる人がおおいに活躍できる仕事といえるでしょう。あと、人柄が良ければ最高かもしれません。



*ただ、人数が多すぎると著者に値しない人が入っている可能性(ギフト・オーサーシップの疑惑)もでやすいので注意が必要。