「Graphical abstract」とは

 去年の夏くらいに論文をやりとりしている中で、査読者の一人*1から「Graphical abstract」というのを作成するように言われました。知らない用語だったので、調べてみると、Abstract(摘要)が簡潔な文章の要約または抜粋であるのに対し、論文の結果を代表できるような1枚のプレートで表現できるような図を「Graphical abstract」と呼んでいるようでした(参考:Graphical abstracts)。これまで生態学・進化学ではそれほど一般的なものではなかったと思います。



「Graphical abstract」の一例


昨今は図書室で新刊の雑誌をパラパラと直接見るよりも、雑誌のウェブサイトや電子メールで送られてくる目次などでタイトルと摘要 をチェックすることの方が多くなったように思います。ちょっと専門外の分野・材料(生物群)になると、英語のタイトルと摘要だけでは、非英語圏の研究者にとっては使用されている英単語がなかなか馴染みがありません。一読でどういう研究かを理解するのは困難です。そういう場合でも、「Graphical abstract」という図や写真が読者の判断や理解を助けるのは間違いありません。


特に、生態学や進化学の場合、どういう生物を扱っているのかを写真ででも記してもらえば一目瞭然のことも多いでしょう。Elservier出版では「Graphical abstract」と呼んでいますが、他の雑誌では、直接そういう名前で呼ばなくても、写真や図を摘要と一緒に載せているサイトも増えつつあるようです。今後どういう呼び名であれ、定着していけば良いなあと個人的には思っています。


 生物の進化や系統学などを扱っている『Molecular Phylogenetics and Evolution』誌は、さまざまな分類群の生物が登場するのでこの試みは割と成功しているように感じます。


『Molecular Phylogenetics and Evolution』の目次(リンク


 Eleservier出版以外ではまだそれほど一般的ではありませんが、生物の生態と進化を扱うオープンアクセスの『Ecology and Evolution』誌でも写真を多く使われており、個人的にはチェックしやすいと思います。


『Ecology and Evolution』の目次(リンク


 毎日山のように論文が出版され、インターネットの普及によってそれぞれにアクセスが容易になりつつあります。個々の論文がいかに読まれるかは著者の努力にかかっているでしょう。論文の内容が第一なのはもちろんですが、タイトルや摘要だけでなく、1枚の図でいかに興味を惹き付けるかも重要になってくるかもしれません。

*1:査読者でそんな要求をするなんて初めてでしたので、たぶん編集者が査読者の一人としてコメントしたんだろうと思います。