保全

絶滅種の再発見:「絶滅」論文は撤回されるべきか?

以前に気候変動で絶滅した種としてとりあげた陸貝が、2014年8月に再発見されたというニュースがありました。 むしのみち 「島に固有のカタツムリが気候変動で絶滅?」 ナショナルジオグラフィック ニュース 「“絶滅”の陸貝を再発見、セーシェル」 いないこと…

アマゾンの巨大ダム建設がもたらす種間相互作用ネットワークの崩壊

南米の熱帯雨林では、水力発電を目的に多数の巨大なダムが建設されてきました。さらに今後20年間でアンデス山脈沿いのアマゾンでは151、ブラジルのアマゾン低地では118ものダム建設が計画されているそうです。熱帯雨林における巨大ダムは、二酸化炭素吸収能…

どこまで復元すべきか

ナショナルジオグラフィックニュース 絶滅した動物は復活させるべきか? DNA情報から絶滅種の復元を目指すという映画「ジュラシックパーク」にも登場したアイデアについて、より現実的に考えた場合の議論です。これは何も絶滅種の復元だけに限らず、生態系の…

稀な種とは何か

私が昆虫少年だった頃、昆虫図鑑に「稀(まれ)な種」という記述をみるだけで、その種に憧れをもち、いつかは採集してみたいと感じました。逆に「普通種」という記述は、どんなに格好が良くてもその種を色あせたものにしてしまいました。 しかし、生態学を学…

個体数の定義

昆虫などの動物の個体数は、しばしば「abundance」として表記されます。 生態学者は、abundance を以下の4つの方法で捉えている。 1. Global abundance:ある種の地球上の総個体数。 2. Local abundance:ある種の特定時期、区画、地域の個体数。 3. Relativ…

ミツバチは重要な送粉者か?

生態学・進化学の最新のトピックを扱うTrends in Ecology and Evolution、略してTREEという雑誌があります。新規なデータに基づく原著論文は含まれておらず、出版された論文紹介(Update)や、意見交換(Letter)、新規なアイデアや意見(Opinion)、そして…

種数面積関係にもとづく絶滅率の推定は過大?

本日5月22日は国際生物多様性の日だそうです。 久しぶりにナショナルジオグラフィック ニュースの記事から 「種の絶滅率はそれほど高くない?」 昨今地球上の生物はかなりの速度で絶滅していると言われています。絶滅原因の最も大きな要因は、生息地の破壊で…

クニマスの定着に導入圧は重要だったのか?

過去に絶滅したと思われていたクニマスが本来生息していなかった湖から再発見されたというニュースが昨年末にちょっとした話題になりました(参考:“絶滅”した幻のクニマスを発見)。10年くらい前学生だった頃に「むしクン」と呼ばれからかわれた身としては…

博物館標本の価値

気候変動による影響、絶滅種/絶滅危惧種の増加、外来種の移入/分布拡大、などなどさまざまな問題について、根拠となる長期データが必要とされています。特に、過去(例えば20世紀初期、古くは19世紀以前)の標本が貴重なデータを提供しうることはもっと認…

日本列島の生物多様性とは

帰国して最初に読む本は決まっていました。*1 生命は細部に宿りたまう ミクロハビタットの小宇宙 日本列島の生物とは、生物多様性の保全とは、いろいろと考えるのに良い本です。日本列島に固有の生物とその種間相互作用について、さまざまな事例を紹介してい…

気候変動に備えた人為的な生息地移動(managed relocation)の是非

今日届いた電子メールを開くと、アンケートの依頼がありました。最近、投稿雑誌や新規雑誌のアンケート依頼がよくあるのですが、「Managed Relocation」というキーワードをみて、真剣に取り組んでみる気になりました。今話題の「気候変動に備えた人為的な生…

尖閣諸島の生物相と外来種問題

尖閣諸島に関する話題の中、魚釣島でのノヤギ問題を解決しようという活動がはじまったようです(センカクモグラを守る会)。 「センカクモグラを守る会」設立記者会見 ヤギはこれまでに尖閣諸島だけでなく世界のさまざまな島に放たれ、その強い増殖率によっ…

島固有の捕食者がもたらす生態系サービス

昨今「生態系サービス(ecosystem service)」という用語が一般的にも普及しつつあります。生態系が保持している機能から人々がいかに恩恵をうけているかを定量的に査定したものです*1。 島の固有種が生態系サービスを提供しているかもしれないという興味深…

ハワイビロウの多様性と絶滅の危機

南の島といえば椰子の木、ここハワイにも多くのヤシが生育しています。もちろん、ワイキキのビーチに生えているヤシは人が持ち込んできた園芸種です。ハワイには Pritchardia というヤシ科の属に23種もが分布しています。すべての種は一つの島ごとにしか見ら…

ハワイの野ブタ:生態系に及ぼす影響

野ブタとは、文字通り、人によって持ち込まれ野生化したブタです。 ハワイ諸島は18世紀終わりにキャプテンクックが発見する以前からポリネシアの人々が入植し生活してきました。彼らは、西洋人よりも前からハワイにブタを持ち込んでいました。初期にポリネシ…

ハワイミツスイ類が絶滅した原因

ハワイ諸島での絶滅や種の保全、外来種による影響などを語る上で欠かせない事例としてハワイミツスイ類があります。あまりに有名な話なので、これまで特別にとりあげてきませんでしたが、2009年に良い総説論文が出ていたのでそれを含めてざっと紹介しておき…

北米大陸にライオンを放そう!?? 再野生化(rewilding)をめぐる論争

害虫や外来種を駆除するために原産地の天敵を導入するのが「古典的生物(的)防除」と呼ばれる考え方です。これまでにも繰り返し述べてきたように、この人為的な外来種の導入はしばしば標的としない生物にも影響を与えるという意味で、その問題点が指摘され…

有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす

生物群集を記載する時に重要なのは、まずは種数(=種の豊かさ species richness)でしょう。10種からなる群集A、同じく10種からなる群集B、そして5種からなる群集Cを比較するとき、群集Cより群集AとBの方が種多様性が高いと言う場合があります。 しかし同じ…

絶滅危惧種ほど研究されやすいか?

パンダやライオンのようなカリスマ的人気のある大型哺乳類が絶滅の危機に瀕しているといえば、多くの人がその保護に関心をもつことでしょう。しかし、あまり注目されていなくても、同程度に絶滅の危機に瀕している動物は山のようにいます。また、絶滅危惧種…

虫下しがダイコクコガネの減少原因か?

食糞性コガネムシ類、いわゆる「糞虫(ふんちゅう」は、私が昆虫少年の頃にはちょっとしたアイドル的な存在でした。 特に、「どくとるマンボウ昆虫記」にも登場するダイコクコガネとよばれる大型糞虫の雄には、カブトムシに勝とも劣らない立派な角があり*1、…

絶滅種キイロネクイハムシの生態

この50年ほど生きた個体が日本から見つからなかったキイロネクイハムシ(Macroplea japana)は、最近の環境省のレッドデータにて「絶滅種」とされました。 絶滅を証明する難しさはありますが(参考:絶滅判定は悪魔の証明)、日本の甲虫採集家の多さや、近年…

オオコウモリによる種子散布:密度が減ると機能しない

種の絶滅は、その果たしていた生態系機能が消えてしまうこと意味しています。しかし、実際には生態系機能の消失は絶滅する前から起こっています。 熱帯、亜熱帯域に分布するオオコウモリ類(Fruit bats)は、植物の種子散布に重要な役割を果たしていると考え…

群集の入れ子構造

大きな箱の中に小さな箱が、そして小さな箱にはさらに小さな箱が入る構造を「入れ子」と呼んでいます。大きな箱の中には小さな箱がたくさん入ります。 箱を生物種からなる群集と考え、群集の部分集合が集まり大きな群集集合を形成していると捉えると、野外の…

核実験によるサンゴの絶滅

生物個体群が絶滅する要因として、人為的な撹乱が近年大きなものとなっています。人為的な撹乱の中でも、もっとも大きなものとして核実験があります。 1946年にビキニ環礁で行われた原爆実験(US Federal Government: Wikipedia より) ビキニ環礁(Bikini A…

IUCN / SSC 専門家グループのニューズレター

研究室のRさんが一人で編集しているIUCNの軟体動物専門家グループのニューズレターが発行されました(フリーでPDFをダウンロードできます)。毎年この季節に出すようですが、いつも豊富なカラー写真や図が満載で、カタツムリ好きの人には楽しめる内容です。…

固有種保全のための生物的防除

いわゆる古典的生物(的)防除(Classical Biocontrol)とは、農作物にとって害となる外来生物対して、その原産地から天敵を導入することでした。しかし、防除のために持ち込まれた外来の天敵が、標的となる生物以外の在来生物を攻撃するという問題点が繰り…

保全生物学の研究は遅れがち?

地球温暖化、生物多様性の減少など、生物学がかかわる環境問題は近年ますます注目されつつあります。研究をうまく政策に活かすには、迅速な研究成果の発表が重要になってきます。しかし、生物多様性の保全にかかわる保全生物学の分野では、研究の公表が他の…

トキはなぜ絶滅しなかったのか

日本で「絶滅」といえば「トキ」、「トキ」といえば「絶滅」というほど種の保全のシンボルになっています。これはトキ*1の学名が Nipponia nippon という、いかにも日本固有種のような名前が大きく関係しているのかもしれません。また、日本での野生絶滅へと…

アマゾンの漁師とカワイルカ

大河川など淡水域に分布するカワイルカは、その進化史からみても重要なのは言うまでもないでしょう。インドカワイルカ(ガンジスカワイルカ、インダスカワイルカ)、アマゾンカワイルカ、ヨウスコカワイルカ、ラプラタカワイルカなどが知られており、それぞ…

SLOSS 論争からアマゾンでの森林断片化大規模実験(BDFFP)へ

マッカーサーとウィルソンによる島嶼生物地理学の平衡理論が提唱され(1963年、1967年)、この理論が国立公園など保護区の設定への応用が試みられました(1970年代前期ー中期)。さらに、保護区は、単一の大面積がいいのか、複数の小面積がいいのか(Single …