絶滅種の再発見:「絶滅」論文は撤回されるべきか?

 以前に気候変動で絶滅した種としてとりあげた陸貝が、2014年8月に再発見されたというニュースがありました。


むしのみち
島に固有のカタツムリが気候変動で絶滅?


ナショナルジオグラフィック ニュース
“絶滅”の陸貝を再発見、セーシェル


 いないこと(絶滅)を証明するのは難しいため、絶滅種の発見はよくあることです(参考:マダガスカルに固有の糞虫は森林破壊で半数が絶滅?―絶滅判定は“悪魔の証明)。今回、興味深いと感じたのは、「絶滅を報告した」原著論文は撤回されるべきか否かということです。


最近話題になることが増えましたが、剽窃などの不正行為(misconduct)や実験・計算ミスなどの悪意のない間違い(honest error)がある論文については、著者もしくは編集部によって撤回されます(retract)(具体的にはウェブサイト等で論文自体に撤回理由が明記される)。2007年に発表された原著論文(気候変動により絶滅したと認定している)は確かに事実としては間違いでしたが、これは論文として撤回されるべきかどうかということです。


 事の経緯は以下のようになっているようです。


 2007年に英国王立協会の科学誌Biology Letters誌に原著論文が掲載された直後、他の研究者らによってその絶滅認定についての疑義が雑誌編集部にコメント論文として送られてきました。疑義の内容は、論文には詳しく調査したとあるが実際は著者一人によるわずか2,3日ほどの調査であった可能性があること、そして気候変動データに関する著者の解釈に無理があるのではないかという意見でした。その原稿は査読されたものの却下(reject)されました。時は流れ、2014年8月に生きた個体が発見されることで「絶滅認定」が間違いであることがわかりました。その後、2007年に疑義を抱いた研究者が再びBiology Letters誌の編集部に連絡をとり、原著論文の撤回を要求しました。しかし、Biology Letters誌は論文の撤回は行わず、代わりに2007年に投稿した疑義についてのコメントと再発見の記録を加えてBiology Letters誌上で掲載する提案をしたということです。撤回を要求した研究者は今のところその提案は断っているようですが、一般メディアにこの経緯を語っています。それに対応する形でBiology Letters誌の編集部もEditorialとして誌上で意見を述べています。


 絶滅種と思われていた種が再発見されたことは大変喜ばしいと感じると同時に、「絶滅認定」のあり方を考えさせるニュースでした。


参考
Gerlach, J. (2007) Short-term climate change and the extinction of the snail Rhachistia aldabrae (Gastropoda: Pulmonata). Biology Letters 3: 581-584.(2007年の原著論文)


Breitbart London (September 10 2014)
'Extinct' snail killed by 'climate change' crawls back from the dead.(論文をめぐる動向)


The Times (September 20 2014)
Snail ‘wiped out by climate change’ is alive and well(論文をめぐる動向)


Biology Letters (October 2014)
Battarbee RW (2014) The rediscovery of the Aldabra banded snail, Rhachistia aldabrae. Biology Letters 10: 20140771(論文をめぐる動向とBiology Letters誌編集の対応)


追記:論文には「取り下げ」(withdrow)と「撤回:(retract)があって一般にはあまり区別されていないようですが、前者は刊行前、後者は刊行後ということで重要性は異なるようです(参考:論文の「取り下げ(withdraw)」と「撤回(retract)」についてのメディアの方とのやりとり)。したがって本文を一部修正しました。