過去に絶滅したと思われていたクニマスが本来生息していなかった湖から再発見されたというニュースが昨年末にちょっとした話題になりました(参考:“絶滅”した幻のクニマスを発見)。10年くらい前学生だった頃に「むしクン」と呼ばれからかわれた身としては、この再発見に同世代の「さかなクン」が関わっていたというのを聞いて、勝手に親近感を抱いたものです。
さて、件のクニマス再発見の論文がようやく出版されたようです*1。
田沢湖で絶滅した固有種クニマス(サケ科)の山梨県西湖での発見
詳細は上のニュースリリースに詳しいですが、絶滅種の再発見というだけでなくさまざまな示唆に富んだ話題です。その中で、私自身が外来種や生態学を勉強してきたということで、外来種の定着にかかわる導入圧というのに注目してみましょう(参考:外来種が定着する/しないメカニズム:散布体の導入圧)。
論文によれば、秋田県の田沢湖で絶滅する少し前に(今回再発見された)山梨県の西湖(さいこ)に10万粒の(発芽)卵が運ばれたという記録があるそうです。つまり、西湖にもともとクニマスは本来生息していないという意味で、(国内)外来種として考えられるわけです。
湖沼は、隔離された島と同様に、外来種が定着しやすく世界中でさまざまな問題がおこっています。外来種の生態学では、最初の導入個体数とその導入回数(これらを散布体の導入圧 propagule pressure という)が、本来生息しない場所で定着するための最も重要な要因として考えられています。淡水魚でもこの導入圧の重要性はこれまで指摘されてきました。
西湖でのクニマスの場合、10万の卵がこの導入圧ということになります。では、この導入圧は高く、定着したのは必然だったのでしょうか? はたまたは導入圧は低く、定着したのは奇跡的な確率だったのでしょうか?
論文によれば、1940年に田沢湖でクニマスが絶滅する前の1930年、60万の卵が長野県、山梨県、富山県のいくつかの湖に導入されたという記録があるそうです(湖名は不明)。そして、1935年に山梨県の西湖と本栖湖(もとすこ)にそれぞれ10万ずつ、1935年には琵琶湖に20万が導入されたそうです。
10万という導入圧が十分であったならば、他の湖でも定着している可能性はあるでしょう。しかし、クニマスはもともと田沢湖にのみ生息していたことから、その生息環境にそれなりの条件が必要だったのかもしれません。
今後の研究に期待したいところです。