アリバチ図鑑

 「月刊むし」に掲載された「日本産アリバチ図鑑」がすばらしい。



月刊 むし 2011年 03月号


 アリバチとは、アリとは全く異なる科に属するハチのグループ(アリバチ科 Mutillidae)です。雄には羽があるものの、雌はアリと同様に無翅なので、よくアリに間違われます。ただし、アリと間違って手でつかんでしまうと刺されてしまうので注意が必要です。


今回の「アリバチ図鑑」では、日本で記録されている17種すべての解説と、16種の標本写真、そしてさらに種の同定のための検索表が掲載されています。


さっそく保有しているアリバチの標本を取り出して同定を試みたところ、「ムネアカアリバチ」の形態と一致しました。大きさも色彩パターンも同所的に生息していた「ムネアカオオアリ」とそっくりです。たまたま似ているだけなのか、はたまたムネアカオオアリがアリバチにベーツ型擬態しているのか、それともミュラー型擬態なのか、ちょっと興味深いところです。



左:ムネアカアリバチ(雌:腹部の先端に針が見える)
右:ムネアカオオアリ(ワーカー=雌)


 一般にアリバチ類は、アナバチ類、ハナバチ類、クモバチ類の巣の幼虫または前蛹、蛹に捕食寄生*1することが知られています。つまり、成虫は歩いて寄主の巣を見つけて侵入し、寄主に産卵し、ふ化した幼虫が寄主を食べて育ちます。


上記のムネアカアリバチでは、ホクダイコハナバチ(コハナバチ科)に寄主していた記録があるようです。他にも、大型アリバチで図鑑によく掲載されているミカドアリバチでは、マルハナバチ類の捕食寄生者としてその生態が比較的よく知られています。しかし、日本産ではわずか5種のアリバチで寄主記録があるだけで、他の種の生態はほとんどわかっていないようです。


アリバチのように美しく興味深い生態をもつにも関わらず、あまり知られていない昆虫について特集されているのはすばらしいと思います。例えば、去年も同誌にて「セイボウ図鑑」が掲載されましたが(月刊 むし 2010年 06月号)、これらの特集が「月刊むし」という商業誌に掲載されているところもすごいと思います。

*1:寄主にとりつき寄生するが最終的に寄主を殺すため、単なる「寄生」と区別して「捕食寄生」と呼ばれる。多くの寄生蜂が捕食寄生者である。