外来種による間接効果

 外来種が在来種に影響を与えるというのは、直接捕食したり、干渉したりするのを直接的な効果(Direct effects)とするなら、第三者を介した影響を間接効果(Indirect effects)とよんでいます。外来種問題は、近年、この間接効果を念頭におかないと、外来種を駆除した後に、予想できない結果を招くこともあります。


 ここで、外来種が関わる間接効果の定義を整理しておきます。

  1. みかけの競争
  2. 間接的な相利共生・偏利共生
  3. 資源消費競争
  4. 栄養カスケード


1. みかけの競争(Apparent competition)

 外来種Aと在来種Bの間に第三の種Cが介在することでおこる「みかけの競争」にはいくつかのタイプがあります。

  • 外来種Aが餌ではない資源(例:シェルター)を提供することで、第三の種Cの密度が増加し、Cの餌となる在来種Bを捕食し影響を与える場合。
  • 外来種Aが、第三の種Cのとある生育ステージ(例:幼体)の餌になることで密度が増加し、Cの異なるステージ(例:成体)の餌となる在来種Bを捕食し影響を与える場合。
  • 外来種Aと在来種Bの共通の捕食者であるC種において、A種よりもB種を好んで捕食するため在来種Bに強い影響を与える場合。
  • 外来種Aと在来種Bの共通の捕食者であるC種において、A種とB種を捕食する率が同じでも、A種よりもB種で繁殖力が弱いため在来種Bに強い影響を与える場合。例として、チャンネル諸島の固有外来種のブタ(A)とハイイロギツネ(B)を捕食するイヌワシ(C)の系において、ブタがキツネよりも繁殖力が高かったこと(詳細)。


2. 間接的な相利共生・偏利共生(Indirect mutualism/comensalism)

 AとBの間に第三の種Cが介在し、AとBの両者、AまたはBにとって有利に働く場合です。AとBが外来種である場合、Aが外来種でBが在来種である場合などがあります。

  • 第三の種Cの存在により、外来種Aが外来種Bの密度増加に貢献する場合。例としては、アイルランドにおいて、外来種のシカ(A)が在来植生を攪乱し、在来種のコケ(C)が繁茂することで、外来種ツツジ(B)のシードバンクになったこと。
  • 第三の種Cの存在により、外来種Aが在来種Bの密度増加に貢献する場合。例としては、外来テントウムシ(A)が、卵寄生蜂(C)の寄主(シンク)となることで、在来テントウムシ(B)が増加したこと。


3. 資源消費競争(Exploitative competition)

 外来種Aと在来種Bで、同じ餌資源Cを利用する場合にも主に二つのパターンの競争があります。

  • 外来種Aの方が在来種Bよりも体サイズが大きく採餌効率が高い場合。例として、外来種のヤモリ(A)が同所的に生育する在来種のヤモリ(B)よりも大型で素早く、より餌昆虫(C)を捕獲し、その結果として餌昆虫が減少し、在来ヤモリ(B)の生存や繁殖に影響を与えたこと。
  • 外来種Aの方が在来種Bよりも餌の摂取効率が高い場合。例として、外来種巻貝(A)の方が、在来巻貝(B)よりも成長率が高く、より大型な個体は繁殖力が高まり、最終的には在来種よりも高い密度に達したこと。


4. 栄養カスケード(Trophic cascades)

 栄養段階の上位種Aが中位種Bを食べることで減少させ、下位種Cが増加する場合(Top-down cascade)。具体例として、ニュージーランドの河川において、外来マス(A)が植食性の無脊椎動物(B)を減少させることで、その餌生物である藻類(C)が増加したこと。栄養カスケードは一般に、水域生態系よりも陸上生態系ではあまり知られてこなかったが、チャンネル諸島において、イヌワシ(A)が固有ハイイロギツネ(B)を減少させることで、その餌となった在来スカンク(C)が増加したことはその一例。その他の例


参考文献
White EM et al. (2006) Biotic indirect effects: a neglected concept in invasion biology. Diversity and Distributions 12: 443-455.


 外来種が在来種に与える影響について、群集生態学といった基礎的な分野の定義・用語にあてはめ整理することは、外来種問題に対する適切な方策を探る上でのヒントになりえるでしょう。また、そういった外来種をめぐる研究は、それぞれの用語の具体例ともなります。