外来種の10%ルール

 外来種というのは、本来生息していない場所で、(1)人によって持ち込まれた種(Imported)、(2)そのうち野外に逸出した種(Escaping)、(3)完全に定着した種(Establishing)、(4)さらに害虫や害草など環境にも影響を与える種(侵略的な種 Becoming a pest)など、それぞれの段階を個別に示す場合と、総称して呼ぶ場合の両方があると思います。


 では、持ち込まれた種のうち、どれくらいが逃げ出し(逸出率)、その中から定着し(定着率)、また定着したもののうち侵略的(侵略種率)になるのでしょうか。いくつかの事例研究から、逃げ出す率、逃げ出した種のうち完全に定着する率、また定着した種のうち侵略的になる率というのは、いずれも10%前後であることがわかってきました。


例えば1000種の昆虫が持ち込まれたとすると、100種が野外に逃げ出し、10種が定着し、1種が害虫になるということです。


 これは、「十分の一法則(The Tens Rule)」と呼ばれています(ただし、タイトルでは「外来種の10%ルール」と名付けてみました)。


 逸出率、定着率、侵略種率の値がそれぞれ5-20%の区間(100のサンプルで0.1の二項分布期待値の信頼区間)にあれば十分の一法則がなりたつとする。


持ち込まれた種数:A
野外に逃げ出した種数:B
定着した種数:C
侵略的になった種数:D


逸出率(%)= B/A × 100
定着率(%)= C/B × 100
侵略種率(%)=D/C × 100


 英国の被子植物、英国のマツ科、オーストラリアの牧草、米国の魚、植物、病原菌、昆虫、陸貝、陸上脊椎動物などで、逸出率、定着率、侵略種率の各値は5-20%のあった(十分の一法則に従った)。


 一方、英国の耕作植物(逸出率は95%、定着率20-31%、侵略種率5%未満)、ハワイの鳥類(定着率50%以上)、生物防除のための導入昆虫(定着率20-61.3%、定着種のうち防除成功率つまり侵略種率30.5-43.2%)、島の哺乳類(定着率100%近く)などは十分の一法則には従わなかった。


 ただし、耕作植物でもカナダでは、侵略種率は17%で十分の一法則の範囲内であった。また、ハワイの外来鳥類に関しては、在来植生のみの定着率は5-20%の範囲におさまった(十分の一法則に従った)。島の哺乳類に関しても調査した研究例が少ないという難点がある。


文献
Williamson M, Fitter A (1996) The varying success of invaders. Ecology 77: 1661-1666.


 一方で、個々の種の定着には、どれくらいの個体数が逃げ出したか(もしくは故意に放たれたか)が極めて重要であるのは想像できるでしょう。これは「散布体の導入圧(Propagule Pressure)」と呼ばれています。