ラポポートの法則(Rapoport's Rule):緯度の増加とともに分布域は広がる?

 温帯より熱帯の方が種数が多い。


というのは、さまざまな生物群で見られるかなり一般的な傾向でしょう(参考:なぜ熱帯に植食性昆虫が多いのか?、または、熱帯ほど生物の種間関係が深い)。横軸に緯度をとり、縦軸に種数をとると、赤道から高緯度にかけてしっかりした勾配(Gradient)を見いだすことができます。このパターンを説明する仮説として、ラポポートの法則(Rapoport's Rule)というのがあります。


 緯度が高い地域(寒帯、温帯)より低い地域(熱帯)の方が、一般的に動植物の緯度分布範囲が狭い。


というものです。つまり、熱帯では分布域が小さい種が多く共存しているため熱帯での種多様性が高いということになります。この法則は1989年に George C. Stevens が American Naturalist誌において提唱したものです。哺乳類の分布でこの傾向を示したアルゼンチンの生態学者ラポポート(Eduardo H. Rapoport)にちなんでつけられました。Stevens はさらに緯度勾配での考え方を標高にあてはめて、高標高域よりも低標高域の方が動植物の標高分布域が狭いということも提唱しています。


実際、いくつかの分類群で緯度の増加とともに分布範囲の増加が観測されています。さらに、もしラポポートの法則が正しいなら、種数ー面積関係は、緯度が増加するほどその傾きが減少すると予測できるでしょう。高緯度地域の種は分布範囲が広いので、面積が増加しても種数増加は急激には起こらないということです。この予測が北米大陸(メキシコ北部から合衆国とカナダ、一部グリーンランドを含む)において検証されています。


 調査データとして、北米大陸(北緯約30度から60度の区間)に分布する維管束植物(在来種)に関する1742のフロラ(植物相)を使った。さらに、緯度にそって4つの区分に、経度に沿って東西2つの区分にわけ(合計8の区分)、それぞれのカテゴリーで種数ー面積関係(横軸には面積の常用対数、縦軸に種数の常用対数)を比較した。


面積と種数の回帰直線の傾きは
西側で北から0.120、0.164、0.244、0.271
東側で北から0.108、0.162、0.191、0.214
全体で北から0.128、0.181、0.206、0.226


つまり、ラポポートの予測(傾きは北より南の方が大きい)と一致した。また、大陸の東西でその傾きの傾度にやや差が見られた。


 このパターンは環境傾度や歴史的な要因によって生み出された可能性がある。例えば、第三紀のロッキー山脈の隆起による乾燥化によって西部地域の固有種率が増加した(北米の維管束植物の固有属のうち60%が大陸西部に、さらにそのうち78%が南西部に集中している)。また、北部地域は第四紀氷期の氷河により多く覆われ、現在これらの地域に分布する種は氷期以後に南部から分散してきた(つまり分布域が広くなった)。


文献
Qian H et al. (2007) The latitudinal gradient of species-area relationships for vascular plants of North America. The American Naturalist 170(5): 690-701.


 しかし Kevin J. Gaston らは、世界各地の陸海さまざまな動植物の緯度にそった種の分布範囲の研究を概観し、ラポポートの法則せいぜい新北区と旧北区の北緯40-50度の間に見られるローカルな現象であるとしています。ラポポートの法則を支えるメカニズムとして考えられた、陸地面積、気候、絶滅率、競争、生物地理境界、といった要因を一つ一つ批判しています。


参考文献
Gaston KJ et al. (1998) Rapoport's rule: time for an epitaph? Trends in Ecology and Evolution 13: 70-74.


Stevens GC (1989) The latitudinal gradient in geographical range: how so many species coexist in the tropics. The American Naturalist 133(2): 240-256.


参考ページ(Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Eduardo_H._Rapoport


 ベルクマンの法則、アレンの法則フォスターの法則(島の法則)など、さまざまな法則に人名がつけられていますが、生態学や生物地理学では、残念ながら高い一般性をもっているものはほとんどないようです。