多様性

なぜ「偽の眼」が進化してきたか

イモムシの「眼状紋」についての論文を読んでみました。 眼状紋というのは、特にチョウやガで本来の眼ではないところに形成される眼そっくりの紋のことです。例えば、ジャノメチョウの仲間の成虫の翅には、名前の由来になっているほど「眼」がたくさんありま…

イモムシ・ケムシは手足をどう使うか

新緑の季節です。新しい葉は柔らかく、いかにもおいしそうです。つまり、葉を食べる虫たちにとっては待ちに待った季節なのです。 昆虫少年時代、イモムシやケムシはあまり好きではありませんでした。しかし、大学院生になって、生態学や進化学の視点から新た…

温帯より熱帯の方が特殊化が起こりやすいか?

緯度の低下とともに種数が増加するという現象はよく知られています(参考:ラポポートの法則(Rapoport's Rule):緯度の増加とともに分布域は広がる?)。そして、関連する現象として、「ニッチ幅は緯度が低いほど狭くなる」というパターンがあります(参考…

日本産陸上発光動物一覧

ノーベル賞の対象ともなったオワンクラゲの発光物質の研究に見られるように、海産の発光動物はよく知られています(参考:wikipedia「生物発光」)。陸上では、ホタルの仲間が多くの種類で知られ、日本でもゲンジボタル、ヘイケボタルというように夏の風物詩…

稀な種とは何か

私が昆虫少年だった頃、昆虫図鑑に「稀(まれ)な種」という記述をみるだけで、その種に憧れをもち、いつかは採集してみたいと感じました。逆に「普通種」という記述は、どんなに格好が良くてもその種を色あせたものにしてしまいました。 しかし、生態学を学…

種数の定義

「種の豊かさ」とも訳される「species richness」は「生物種の数(種数)」のことを意味します。 群集生態学を勉強し始めた大学4年生の頃、論文の中で頻繁に出てくる「species richness」が最初何を示しているのかわかりませんでした。種数のことを言ってい…

ヒメバチ類の種多様性は熱帯林でも低くない?

緯度が低くなるほど種数が多い。温帯より熱帯の方が種多様性が高いのはさまざまな生物群で言われてきたことです。種数ー面積関係と同様、生態学では数少ない頑強な「一般則」の一つと考えられています。これまでも緯度ー種数関係についてはさまざまな視点か…

カブトムシと樹液

子供の頃からずっと昆虫採集を続けてきましたが、今年ほどカブトムシをたくさん採集した年はなかったでしょう。たくさんの個体を必要とする案件があったからですが、今の職場の構内だけでかなりの数を採ったと思います。実家は大阪の住宅街にあって、少年時…

奥日光のシデムシ

先日、梅雨の晴れ間を狙って奥日光まで行ってきました。 今回の目的は、山地性のシデムシ*1を採集することです。曇ったり、晴れたり、雨が降ったりの天気にも関わらず、目的のホソヒラタシデムシとカバイロヒラタシデムシを無事採集することができました。実…

恐竜図鑑

『決着! 恐竜絶滅論争』を読んだのをきっかけに、 白亜紀末の大量絶滅に興味をもったので、『絶滅のクレーター―T・レックス最後の日』や『ネメシス騒動―恐竜絶滅をめぐる物語と科学のあり方』、『恐竜はネメシスを見たか』と続けて読んできました(参考:恐…

種間関係の多様性を俯瞰する

さまざまな生物間相互作用に興味のあるナチュラリスト向けの本が出版されました。 『種間関係の生物学―共生・寄生・捕食の新しい姿』 目次 はじめに 第1部:食うー食われるの新しい姿 第1章:形を変えるオタマジャクシ:操作実験からのアプローチ 第2章:右…

ミツバチは重要な送粉者か?

生態学・進化学の最新のトピックを扱うTrends in Ecology and Evolution、略してTREEという雑誌があります。新規なデータに基づく原著論文は含まれておらず、出版された論文紹介(Update)や、意見交換(Letter)、新規なアイデアや意見(Opinion)、そして…

種数面積関係にもとづく絶滅率の推定は過大?

本日5月22日は国際生物多様性の日だそうです。 久しぶりにナショナルジオグラフィック ニュースの記事から 「種の絶滅率はそれほど高くない?」 昨今地球上の生物はかなりの速度で絶滅していると言われています。絶滅原因の最も大きな要因は、生息地の破壊で…

日本の固有植物

ようやく初夏らしい日が続くようになってきました。フィールドシーズン到来です。ゴールデンウィークより、いろいろな花を見る機会がありました。日本の初夏は3年ぶりということで、日本の植物の良さを感じるとともに改めて自身が日本で生まれ育った日本人な…

究極のレピ図鑑? 日本産蛾類標準図鑑

すっかり春らしい陽気が続いています。余震も、放射性物質も、花粉も気になる毎日ですが、先日は研究所の同僚とお花見をしながら外でお弁当を食べました。 考えてみればサクラの開花をみるのも3年ぶり? こんな世の中ですが、大著が出版されました。その名も…

至高のレピ図鑑?

学生の頃、樹木につく様々な蛾(ガ)*1の幼虫を採集し、飼育して、その天敵である寄生蜂や寄生蝿を羽化させる研究をしていました(参考)。 採集した幼虫は、まず、保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑(全2巻)」(1965年)か、講談社の「日本産蛾類生態図鑑」(1…

アリバチ図鑑

「月刊むし」に掲載された「日本産アリバチ図鑑」がすばらしい。 月刊 むし 2011年 03月号 アリバチとは、アリとは全く異なる科に属するハチのグループ(アリバチ科 Mutillidae)です。雄には羽があるものの、雌はアリと同様に無翅なので、よくアリに間違わ…

被子植物のうち87.5%の種が動物媒

そろそろスギ花粉が飛散する季節になってきました。スギはご存知のように風によって花粉が運ばれる風媒花をつけます。温帯から寒帯にかけて多く分布する針葉樹などの裸子植物では、風媒の種がほとんどです。一方、被子植物では、風媒の種の割合はそれほど高…

博物館標本の価値

気候変動による影響、絶滅種/絶滅危惧種の増加、外来種の移入/分布拡大、などなどさまざまな問題について、根拠となる長期データが必要とされています。特に、過去(例えば20世紀初期、古くは19世紀以前)の標本が貴重なデータを提供しうることはもっと認…

周辺環境が食物網を通じ害虫の大発生を抑える

天敵の多様性が高まれば害虫の個体数を低く抑えることが可能でしょうか? 実際、天敵が多様なほど、害虫を減らすということが報告されています(参考:有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす)。しかし、天敵の多様性が高い系で必ずしも害虫が大…

全動物種の記載にかかる推定予算

地球上の生物種は何種くらいいるのか、また未だ記載されていない種を全部記載するのにどれくらいの期間がかかるのか。では、それにかかる予算は? 最近 Trends in Ecology & Evolution 誌に出た短い論文で、全動物種の記載にかかるコストが推定されていまし…

マイマイカブリの地理的変異:首が細いか太いか

日本列島に固有の生物について、その多様性や地理的変異を明らかにするという研究に強く興味をもっています。最近、Evolution 誌に日本固有のマイマイカブリの地理的変異についての論文が出版されたようで、さっそく読んでみました。 カタツムリを捕食するマ…

潜葉虫の自然史

待望の(?)潜葉虫(せんようちゅう)に関する本が出ました。 絵かき虫の生物学 目次 絵かき虫の生物学(序論) I. 絵かき虫の分類・多様性 コウチュウの絵かき虫 葉に潜るハエとその進化史 潜葉性をもつガ類の多様性 ハチの絵かき虫 II. 絵かき虫の生態 チ…

植物の種多様性が食物網に与える影響

とあるグループの種多様性が減少することで、食物網を通じて他の生物にどのような影響を与えるのでしょうか。 例えば、植物の種数が増えれば、それらを食べる植食者の種数が増えることが予想されます。では、植食者を食べる捕食者の種数や個体数は増えるので…

日本列島の生物多様性とは

帰国して最初に読む本は決まっていました。*1 生命は細部に宿りたまう ミクロハビタットの小宇宙 日本列島の生物とは、生物多様性の保全とは、いろいろと考えるのに良い本です。日本列島に固有の生物とその種間相互作用について、さまざまな事例を紹介してい…

侵入のパラドックス:在来種数が多いほど場所ほど外来種数も増える?

さまざまな地域間で比較すると、在来種数が多い場所ほど外来種数も多い傾向があることが知られています。あれ?在来種が多い群集ほど外来種は侵入・定着しにくいのではなかったのでしょうか。実は、在来種数と外来種数の関係は複雑で、どの空間スケールでみ…

外来種は種多様性を高めていますか?

ありがちな質問として、 「外来種は種多様性を高めているんじゃないでしょうか?」 というのがあります。実際、以前に紹介したように島嶼部では外来植物の増加によって本来の種数の二倍にもなっています(参考:島で植物の種数は二倍になる 1、2)。 種多様…

ハワイビロウの多様性と絶滅の危機

南の島といえば椰子の木、ここハワイにも多くのヤシが生育しています。もちろん、ワイキキのビーチに生えているヤシは人が持ち込んできた園芸種です。ハワイには Pritchardia というヤシ科の属に23種もが分布しています。すべての種は一つの島ごとにしか見ら…

アレンの法則(Allen's rule):鳥の嘴は高緯度ほど小さい

動物の体サイズの地理的変異に関するパターンとして、ベルクマンの法則や、フォスターの法則(島の法則)などがあります(参考:島が大きくなると体サイズが増加する?;島の法則)。 ベルクマンの法則は1847年に Christian Bergmann によって提唱されたパタ…

有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす

生物群集を記載する時に重要なのは、まずは種数(=種の豊かさ species richness)でしょう。10種からなる群集A、同じく10種からなる群集B、そして5種からなる群集Cを比較するとき、群集Cより群集AとBの方が種多様性が高いと言う場合があります。 しかし同じ…