日本の固有植物

 ようやく初夏らしい日が続くようになってきました。フィールドシーズン到来です。ゴールデンウィークより、いろいろな花を見る機会がありました。日本の初夏は3年ぶりということで、日本の植物の良さを感じるとともに改めて自身が日本で生まれ育った日本人なんだと認識します。



キンラン



エビネ



クマガイソウ


 いずれのランも関東の低地で撮影したもの。実は、エビネクマガイソウの野生株を観たのは初めてです。クマガイソウはアツモリソウの仲間で、その花の形のユニークさだけでなく、その和名が日本っぽくて感慨深い。クマガイソウは熊谷直実、アツモリソウは平敦盛といった武将が身につけていた防具(母衣)に由来します。一方、英語ではアツモリソウの仲間は「Lady's slipper(女性のスリッパ)」と呼ばれ、見る人や文化によっていろいろなのです。



ウラシマソウ


 ウラシマソウはテンナンショウの仲間で、花序は仏炎苞に包まれます。ウラシマソウの特徴は花序から伸びる付属体が、仏炎苞から外まで長く飛び出しているところです。これが、浦島太郎の釣り竿の釣り糸に見立てられたというお話にも納得です。


テンナンショウ類の多くは、雄花と雌花が別々に咲きます。いずれの花も匂いを出して、キノコバエなどのハエ類をおびき寄せます。雄花の仏炎苞には虫の出口がついているのですが、雌花にはついていません。つまり、匂いにだまされて雄花で花粉をつけられたハエが、再び雌花にだまされ捕まってしまうのです。



ウラシマソウの雌花序を包む仏炎苞の中で死んだキノコバエ


 クマガイソウもウラシマソウも日本だけに見られる固有の植物です。日本には固有種が何種類くらいいるのでしょうか?「環境史とは何か」の第一章「日本列島はなぜ生物多様性ホットスポットなのか」にて数値が記されています。これによると、


日本の固有種数


維管束植物:5600種類(うち1950固有種:固有率35%)
哺乳類:91種(うち46固有種:固有率51%)
鳥類:368種(うち15固有種:固有率 4%)
爬虫類:64種(うち28固有種:固有率 44%)
両生類:58種(うち44固有種:固有率 76%)
魚類:214種(うち52固有種:固有率24%)


環境史とは何か」より


日本産維管束植物の固有率は、コーカサスユーラシア大陸)の維管束植物の固有率25%より高く、ニュージーランドの81%より低い値です。また、日本産鳥類の固有率4%、魚類24%より高く、は虫類44%、ほ乳類51%、両生類76%より低い値です。ただし、1950種という固有種数は、ニュージーランドの維管束植物の固有種数(1865種)よりも多く、日本産のいずれの分類群よりも圧倒的に多い種数です(ただし、無脊椎動物はのぞく)。


日本にはどのような固有植物が分布するのでしょうか。日本には多くの植物図鑑が出版されてきましたが、ついに日本固有種に絞った図鑑が出版されました。



 日本の固有植物


 内容は4部に分けられており、1部が日本産固有植物について、その起源や歴史、生息環境などが解説され、2部は日本の固有植物図鑑として代表的な種についての写真が、3部にすべての固有種(または変種)についての目録が、4部に分布図が掲載されています。


多様性や固有性、そしてその起源に関心がある人は1部が、花や植物、写真に興味がある人は2部が、日本産フロラや詳細な学名を知りたい人は3部が、そして植物の地理的な分布に興味がある人は4部が有益でしょう。このように、さまざまな人に利用しやすい体裁となっています。そして何よりすばらしいのが、たった4000円弱というところです。こういう図鑑がこの値段で提供されているというのは日本の植物図鑑ならではないでしょうか。


ちなみに本書では、日本産植物の固有種数は以下のように記載されています。


日本産固有種数


双子葉:1197種
単子葉:389種
裸子:21種
シダ:112種
コケ:143種

合計:1862種


日本の固有植物」より


 この本を眺めていると、とある先生による「日本に固有の植物の科を挙げよ」というテストを思い出しました*1。本書を読めば及第点がとれるでしょう。

*1:答えは、本書の最初の写真プレートにあります。ちなみにこの質問は、研究室に出入りする若者の知識レベルを測るために出された試練の一つです。