種数面積関係にもとづく絶滅率の推定は過大?

 本日5月22日は国際生物多様性の日だそうです。


 久しぶりにナショナルジオグラフィック ニュースの記事から


種の絶滅率はそれほど高くない?


 昨今地球上の生物はかなりの速度で絶滅していると言われています。絶滅原因の最も大きな要因は、生息地の破壊です。生息地がどれくらい破壊されると種数が減るのかを知ることで、これまでの絶滅種数およびこれからの絶滅種数が推定されてきました。この推定にはに種数面積関係が使われてきました。


種数面積関係とは、一定面積に発見される種数が、その面積とともに増加するパターンをいいます(参考:島面積と種数の関係:メカニズムのまとめ)。つまり、この種数面積関係を単純にひっくり返し、生息地面積が破壊されたときに消失する種数を推定するというものでした。しかし、最近ネイチャーで発表された論文によれば、その推定は過大だということです。


ナショナルジオグラフィックニュースの記事がわかりやすくまとめています。


 しかしこの方法には欠陥があるとハッベル氏は指摘する。1つの種を絶滅させるために破壊が必要な土地は、1つの種の発見に必要な土地よりも広いからだ。


 つまり、ある地域で1個体でも見つかれば、それだけでその種の個体群が新たに発見されたと言えるが、ある種が絶滅したと言うためには、ほかの生息域を含めてその種のすべての個体がいなくならなければならないのだ。


 ハッベル氏は、共同研究者である中国中山大学の何芳良氏とともに、世界中の調査済みの森林8地域(面積はそれぞれ約20〜50ヘクタール)から得られたデータを分析した。また、アメリカ合衆国本土に生息する数種の鳥の生息域も調査した。


 これらの実データと数学的モデルとに基づいて計算したところ、SAR(種数面積関係)から導き出された絶滅率は、実際より160%も過大に見積もられているとの結論が得られた。


ナショナルジオグラフィック ニュース
種の絶滅率はそれほど高くない?」より


 絶滅したと思われていた種が絶滅していなかったことを示すのはただ一度の再発見で良いのですが、絶滅したと確定するのは「悪魔の証明」にたとえるほど簡単ではないというお話を以前紹介しました(参考:マダガスカルに固有の糞虫は森林破壊で半数が絶滅?―絶滅判定は“悪魔の証明”)。とはいえ、絶滅を知るのは困難な分、いつの間にか実際に絶滅してしまっている種が多い可能性もあるのです。


 種数面積関係は150年も昔に発見されたパターンですが、いまだにネイチャー誌上でとりあげられている点も興味深いです。


文献
He F, Hubbell SP (2011) Species-area relationships always overestimate extinction rates from habitat loss. Nature 478:368-371.


Rahbek C, Colwell RK (2011) Species loss revisited. Nature 473:288-289.