生態学

学問の系譜

最近はスマホ(Kindle)で本や漫画を読んだり、SNSを眺めることが多くなり、紙の本にふれる機会がかなり減ってしまいました。しかし、年末年始に家でゆっくりする時間がとれ、久しぶりに紙の本を手にすることができました。いろいろ読みたい本や読むべき本が…

生態学・進化学におけるナチュラルヒストリー

生態学や進化学は、その学問の名前で呼ばれるようになる以前は博物学(Natural History)という学問分野に含まれていました。現在の生態学や進化学の礎を築いたダーウィンやウォーレスも、彼らが活躍した19世紀には博物学者(Naturalist)と呼ばれていました…

進化学・島の生態学を学べるオススメ本

進化学や島の生態学について、日本語で気楽に読めて勉強にもなる本。学部生には少し難しいかもしれませんが、大学院生くらいになるとかなり理解が深まると思います。進化学や生態学、島の生物学について研究をしている人にはおすすめです。 歌うカタツムリ-…

孀婦岩における島の法則

先日放映された「ダーウィンが来た!」の「世界初調査!東京の秘境 孀婦(そうふ)岩」は楽しめました。 伊豆諸島最南端において、海上からほぼ垂直に100mも突き出た巨大な岩(孀婦岩)を調査したところ、本州などに見られる種(個体)に比べて巨大化したウ…

ヘッピリムシの護身術

「ヘッピリムシ」ことミイデラゴミムシという昆虫がいます。江戸時代には「行夜(こうや)」という名称で、別名「へひりむし」「へこきむし」と呼ばれ、その後「三井寺はんめう」「ミイデラゴミムシ」と呼び名が変遷してきたことが知られています。 「へっぴ…

イモムシ・ケムシの護身術

イモムシやケムシといえば、柔らかい体にたくさん脚があってうねうねと動くので、気持ち悪がられる代表的な虫たちです。実際、虫好きを自認する私も子供の頃から生理的に受け付けませんでした。イモムシが多い4,5月は森や林に行くのもためらわれるほど。…

アルフレッド・ラッセル・ウォレス賞とは

進化学や生物地理学で有名なウォレス(Alfred Russel Wallace)の名を冠した賞はいくつかありますが、国際生物地理学会(International Biogeography Society)が2004年から「Alfred Russel Wallace Award」を授与しています。 国際生物地理学会が発行する『…

アマゾンの巨大ダム建設がもたらす種間相互作用ネットワークの崩壊

南米の熱帯雨林では、水力発電を目的に多数の巨大なダムが建設されてきました。さらに今後20年間でアンデス山脈沿いのアマゾンでは151、ブラジルのアマゾン低地では118ものダム建設が計画されているそうです。熱帯雨林における巨大ダムは、二酸化炭素吸収能…

なぜ「偽の眼」が進化してきたか

イモムシの「眼状紋」についての論文を読んでみました。 眼状紋というのは、特にチョウやガで本来の眼ではないところに形成される眼そっくりの紋のことです。例えば、ジャノメチョウの仲間の成虫の翅には、名前の由来になっているほど「眼」がたくさんありま…

イモムシ・ケムシは手足をどう使うか

新緑の季節です。新しい葉は柔らかく、いかにもおいしそうです。つまり、葉を食べる虫たちにとっては待ちに待った季節なのです。 昆虫少年時代、イモムシやケムシはあまり好きではありませんでした。しかし、大学院生になって、生態学や進化学の視点から新た…

研究留学の手引き

6年ほど過ごした関東を離れ、およそ9年ぶりに関西に戻ってきました。3月いっぱいで前職を辞して、心機一転新しい住居、新しい職場で再スタートしたからです。関西に戻ってきたといってもはじめて住む町なので、全く新しい人生を歩むような気分です。引っ越し…

妖精の輪と悪魔の庭

AFPBB Newsより 『「妖精の輪」、実はシロアリが原因』 Fairy circle(Wikipedia より:by Thorsten Becker) アフリカの草地に「妖精の輪(Fairy circle)」と呼ばれる、円形の「裸地」が出現する現象は古くから知られていたそうです。これはシロアリの一種 …

どこまで復元すべきか

ナショナルジオグラフィックニュース 絶滅した動物は復活させるべきか? DNA情報から絶滅種の復元を目指すという映画「ジュラシックパーク」にも登場したアイデアについて、より現実的に考えた場合の議論です。これは何も絶滅種の復元だけに限らず、生態系の…

温帯より熱帯の方が特殊化が起こりやすいか?

緯度の低下とともに種数が増加するという現象はよく知られています(参考:ラポポートの法則(Rapoport's Rule):緯度の増加とともに分布域は広がる?)。そして、関連する現象として、「ニッチ幅は緯度が低いほど狭くなる」というパターンがあります(参考…

植物が粘毛によって虫を捕獲し捕食者を誘引する

植物なのに昆虫などを捕らえてエサにする。本来、独立栄養生物なのに、動物のように捕食者にもなりうるという食虫植物は大変ユニークな存在です。ダーウィンもその生態に興味を持ち、モウセンゴケの葉がタンパク質などに対して反応することを実験的に示唆す…

日本産陸上発光動物一覧

ノーベル賞の対象ともなったオワンクラゲの発光物質の研究に見られるように、海産の発光動物はよく知られています(参考:wikipedia「生物発光」)。陸上では、ホタルの仲間が多くの種類で知られ、日本でもゲンジボタル、ヘイケボタルというように夏の風物詩…

研究留学

異国の地で一定期間留まって研究に従事することをここでは研究留学と呼ぶとします。研究者を志すなら、一度はこの研究留学を体験しておきたいものです。しかし、研究留学がどういうものか、大学生や大学院生の頃から事前に知っておくのは大切なことだと思い…

稀な種とは何か

私が昆虫少年だった頃、昆虫図鑑に「稀(まれ)な種」という記述をみるだけで、その種に憧れをもち、いつかは採集してみたいと感じました。逆に「普通種」という記述は、どんなに格好が良くてもその種を色あせたものにしてしまいました。 しかし、生態学を学…

他種との相互作用なしに生息する種は存在する

先日の特集記事で種間相互作用の普遍性を紹介する時に、「他種との相互作用なしに生息する種は存在しない」と書いたのですが、例外があることを今さらながら知りました。 One-Organism Ecosystem Discovered in African Gold Mine 「たった1種の細菌からなる…

「種間相互作用の島嶼生物地理」の特集記事

かの大震災から1年と9ヶ月。地震が起こったのは、札幌開催の生態学会において自身が企画していた「種間相互作用の島嶼生物地理」での講演の最中でした(参考:「種間相互作用の島嶼生物地理」を企画)。その企画集会の内容をもとに、学会の和文誌に特集記事…

個体数の定義

昆虫などの動物の個体数は、しばしば「abundance」として表記されます。 生態学者は、abundance を以下の4つの方法で捉えている。 1. Global abundance:ある種の地球上の総個体数。 2. Local abundance:ある種の特定時期、区画、地域の個体数。 3. Relativ…

種数の定義

「種の豊かさ」とも訳される「species richness」は「生物種の数(種数)」のことを意味します。 群集生態学を勉強し始めた大学4年生の頃、論文の中で頻繁に出てくる「species richness」が最初何を示しているのかわかりませんでした。種数のことを言ってい…

ヒメバチ類の種多様性は熱帯林でも低くない?

緯度が低くなるほど種数が多い。温帯より熱帯の方が種多様性が高いのはさまざまな生物群で言われてきたことです。種数ー面積関係と同様、生態学では数少ない頑強な「一般則」の一つと考えられています。これまでも緯度ー種数関係についてはさまざまな視点か…

パターンの抽出とメカニズムの提案

Whittakerらの「海洋島の生物地理学における一般動態理論」は、生態学ではよくある研究の流れにのって提案されたものでした。 Emerson & Kolm (2005) は、ネイチャー誌上で、ハワイやカナリア諸島において種数の多い島ほど単島固有種率が高いことを明らかに…

海洋島の生物地理学における一般動態理論

2009年に「島の生物地理学の理論、再び」を紹介しました。その中で、Robert J. Whittakerらが、マッカーサーらの理論は孤立した海洋島ではうまく説明できないことが多く、新たに「海洋島生物地理学における一般動態理論(general dynamic theory of oceanic …

カブトムシと樹液

子供の頃からずっと昆虫採集を続けてきましたが、今年ほどカブトムシをたくさん採集した年はなかったでしょう。たくさんの個体を必要とする案件があったからですが、今の職場の構内だけでかなりの数を採ったと思います。実家は大阪の住宅街にあって、少年時…

奥日光のシデムシ

先日、梅雨の晴れ間を狙って奥日光まで行ってきました。 今回の目的は、山地性のシデムシ*1を採集することです。曇ったり、晴れたり、雨が降ったりの天気にも関わらず、目的のホソヒラタシデムシとカバイロヒラタシデムシを無事採集することができました。実…

恐竜絶滅と周期的大量絶滅

白亜紀の終わりを告げる6500万年前の小惑星衝突による恐竜の絶滅について最初に知ったのは、中学生か高校生の頃でした。確か、英語の教科書に載っていたので単語を調べて熱心に読んだ記憶があります。恐竜を含む多くの生物が絶滅したと思われる地層の粘土層…

種間関係の多様性を俯瞰する

さまざまな生物間相互作用に興味のあるナチュラリスト向けの本が出版されました。 『種間関係の生物学―共生・寄生・捕食の新しい姿』 目次 はじめに 第1部:食うー食われるの新しい姿 第1章:形を変えるオタマジャクシ:操作実験からのアプローチ 第2章:右…

日本人と生物地理

去年の3月11日は、私自身にとっても日本全体にとっても忘れない日となりました。地震が起こったのは、ちょうど、札幌で開催されていた日本生態学会の大会にて、私自身が企画した研究集会の発表の最中でした。 この一年を振り返って、自身の研究の意義を見失…