生態学

南極氷底湖の生物相解明にむけて

ナショナルジオグラフィック ニュースより「南極最大の氷底湖、到達を確認」 ついに南極大陸最大と推定される氷底湖ボストーク湖に到達したというビッグニュースです。昨年末に読んだばかりの「地球環境を映す鏡 南極の科学」の中では、氷底湖の発見は南極大…

ミツバチは重要な送粉者か?

生態学・進化学の最新のトピックを扱うTrends in Ecology and Evolution、略してTREEという雑誌があります。新規なデータに基づく原著論文は含まれておらず、出版された論文紹介(Update)や、意見交換(Letter)、新規なアイデアや意見(Opinion)、そして…

サムライアリの季節

昨日の夕方、研究所の構内でアリの行列を見つけました。ひょっとして、と思いしばらく観察していると、その集団はクロヤマアリの巣に入っていきました。 クロヤマアリの巣に入り込むアリの集団 さらに観察を続けると、巣の中から繭を運び出しています。 クロ…

藻場と海草とワレカラ

やっぱり日本の夏は暑いです。湿度が高いのはもちろんですが、実際の気温も高い。ハワイでは寝苦しくて目が覚めたのは2年間で1,2日くらいだったのに。 暑いと海に行きたくなるそうですが、内陸生まれの内陸育ちで、海には全く馴染みがありません。ハワイに2…

写真撮って専門誌に発表

3年ぶりの日本のフィールドシーズンということで、毎週のように出かけており更新が滞っておりました。 さて、連休でちょっと一息ついたということもあって、久しぶりの更新です。 おなじみのナショナルジオグラフィックニュースから 豪州で発見、道具を使う…

種数面積関係にもとづく絶滅率の推定は過大?

本日5月22日は国際生物多様性の日だそうです。 久しぶりにナショナルジオグラフィック ニュースの記事から 「種の絶滅率はそれほど高くない?」 昨今地球上の生物はかなりの速度で絶滅していると言われています。絶滅原因の最も大きな要因は、生息地の破壊で…

追悼・あこがれの昆虫学者

コーネル大学名誉教授のトーマス・アイズナーさん(Thomas Eisner)が先月逝去されました。 New York Times Thomas Eisner, Who Cracked Chemistry of Bugs, Dies at 81 長年患っていたパーキンソン病の合併症で亡くなられたようで、享年81歳とのこと。安ら…

「種間相互作用の島嶼生物地理」を企画

日本生態学会の札幌大会に参加しました。 この数年、島の生物学を勉強したり研究したりして、島の生物間相互作用について少しまとまった形として何かしたいなあと漠然と考えてきました。ハワイから帰国して、次も島の生物学を研究できるという保証(例えば研…

被子植物のうち87.5%の種が動物媒

そろそろスギ花粉が飛散する季節になってきました。スギはご存知のように風によって花粉が運ばれる風媒花をつけます。温帯から寒帯にかけて多く分布する針葉樹などの裸子植物では、風媒の種がほとんどです。一方、被子植物では、風媒の種の割合はそれほど高…

周辺環境が食物網を通じ害虫の大発生を抑える

天敵の多様性が高まれば害虫の個体数を低く抑えることが可能でしょうか? 実際、天敵が多様なほど、害虫を減らすということが報告されています(参考:有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす)。しかし、天敵の多様性が高い系で必ずしも害虫が大…

ヒカリコメツキが光る理由

先日放映されたテレビ番組の中で「ヒカリコメツキの発光」映像が大変興味深かった。 世界の生物多様性のホットスポットを、福山雅治がナビゲーターとして訪れていくという番組です。ホットスポットの定義については、以前に少し触れました(ホットスポットと…

潜葉虫の自然史

待望の(?)潜葉虫(せんようちゅう)に関する本が出ました。 絵かき虫の生物学 目次 絵かき虫の生物学(序論) I. 絵かき虫の分類・多様性 コウチュウの絵かき虫 葉に潜るハエとその進化史 潜葉性をもつガ類の多様性 ハチの絵かき虫 II. 絵かき虫の生態 チ…

蔓脚類の自然史

以前から気になっていた蔓脚類(まんきゃくるい)についての一般向けの書物を、西表島への出張の道すがら読んでみました。 フジツボ―魅惑の足まねき 一般にはフジツボと呼ばれていますが、ダーウィンもかなり真剣に研究に取り組んだ動物の仲間です。固着性で…

植物の種多様性が食物網に与える影響

とあるグループの種多様性が減少することで、食物網を通じて他の生物にどのような影響を与えるのでしょうか。 例えば、植物の種数が増えれば、それらを食べる植食者の種数が増えることが予想されます。では、植食者を食べる捕食者の種数や個体数は増えるので…

アイランド・シンドローム

小笠原諸島など海洋島における生物相やその進化について一般的にわかりやすい本が出版されていました。この2年間ここで紹介してきたような話が、かなりわかりやすくまとまっています。 小笠原諸島に学ぶ進化論 ―閉ざされた世界の特異な生き物たち― 「Island …

侵入のパラドックス:在来種数が多いほど場所ほど外来種数も増える?

さまざまな地域間で比較すると、在来種数が多い場所ほど外来種数も多い傾向があることが知られています。あれ?在来種が多い群集ほど外来種は侵入・定着しにくいのではなかったのでしょうか。実は、在来種数と外来種数の関係は複雑で、どの空間スケールでみ…

外来種は種多様性を高めていますか?

ありがちな質問として、 「外来種は種多様性を高めているんじゃないでしょうか?」 というのがあります。実際、以前に紹介したように島嶼部では外来植物の増加によって本来の種数の二倍にもなっています(参考:島で植物の種数は二倍になる 1、2)。 種多様…

扁形動物の社会性:吸虫の兵隊カースト

ミツバチやアリなどの社会性ハチ類、そしてシロアリ類では、自らは繁殖しない階級(カースト)の存在が知られています(参考:真社会性)。例えば、ミツバチのワーカーは餌をとり幼虫の世話をしますが、自らは繁殖しません*1。繁殖するカーストとしないカー…

ベルクマンの法則 (Bergmann's Rule):パターンかメカニズムか?

動物の体サイズの地理的変異に関して、島の法則(フォスターの法則)やアレンの法則について紹介してきました。最も有名なベルクマンの法則(Bergmann's Rule)については Wikipedia の一般的な定義を引用することですませてきました。 恒温動物においては、…

島にゾウガメを放そう!? 島嶼生態系への代替種導入(taxon substitution)

北米大陸での再野生化計画に関して極めて否定的な見解が多いことを紹介しました。 メガファウナに限らず絶滅種の代替種を導入しようという考え方(taxon substitution)は、島を含めてさまざまな地域に適用できるものです。 島環境では生態系に強い影響を与…

北米大陸にライオンを放そう!?? 再野生化(rewilding)をめぐる論争

害虫や外来種を駆除するために原産地の天敵を導入するのが「古典的生物(的)防除」と呼ばれる考え方です。これまでにも繰り返し述べてきたように、この人為的な外来種の導入はしばしば標的としない生物にも影響を与えるという意味で、その問題点が指摘され…

捕食よりも種内競争の淘汰圧が強い?

種内(個体群内)の激しい競争が強い淘汰圧となり表現型が変化するというのがダーウィン以来の進化の一般的な考え方です。表現型の変化というのは、体サイズが大きくなったり、脚が相対的に長くなったりといった形態変化を含みます。 種内競争といっても、餌…

アレンの法則(Allen's rule):鳥の嘴は高緯度ほど小さい

動物の体サイズの地理的変異に関するパターンとして、ベルクマンの法則や、フォスターの法則(島の法則)などがあります(参考:島が大きくなると体サイズが増加する?;島の法則)。 ベルクマンの法則は1847年に Christian Bergmann によって提唱されたパタ…

有機農法が害虫の天敵の多様性を高め収穫量を増やす

生物群集を記載する時に重要なのは、まずは種数(=種の豊かさ species richness)でしょう。10種からなる群集A、同じく10種からなる群集B、そして5種からなる群集Cを比較するとき、群集Cより群集AとBの方が種多様性が高いと言う場合があります。 しかし同じ…

アリと植物の相互作用

先日参加した Evolution 2010 の会場では、進化学や生態学に関係する多くの書籍が販売されていました。学会も終盤になると、展示していた書籍の一部が50%引きという格安になっていたので、ついつい買ってしまいました。 そのうちの一冊が「The Ecology and …

生物地理学の教科書

「Biogeography 3rd edition」出版からおよそ5年、はやくも4th editionが出版される模様です。 Lomolino、Riddle、Brownといった従来の著者に、「Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation」や「Journal of Biogeogaraphy」の編者でおなじ…

チェッカー盤分布をめぐる論争

島嶼生物地理学の理論を提唱し、群集生態学のリーダーシップをとっていたマッカーサー(Robert MacArthur)は、1972年にわずか42歳という若さで亡くなりました。 マッカーサーに強い影響を受けた研究者たちが集まり、1975年に彼に追悼の意を示し「Ecology an…

古典的な生態学の論争:密度依存性をめぐって

とある種の個体数密度(単位面積あたりの個体数)が増加すると、死亡率も上昇することを「密度依存(density dependence)」といいます。例えば、致死性の高い感染病は、密度が高いところほど感染が広まりやすく死亡率が増加することが予想されるでしょう。…

無限に増えない理由

ゴキブリ嫌いの人には申し訳ありません。熱帯生活でのゴキブリあるあるネタからはじめます。 原稿をプリントアウトすると圧縮標本ができた(プリンターに潜んでいた) 食べかけのスナックの袋から出てきた(封があまかった) 夜中に部屋でガが飛んでいるかと…

シタバチに発信機を装着

私の大好きな生態学者であるハインリッチ(Bernd Heinrich)*1は、マルハナバチの採餌行動を調べるために、自ら走ってハチを追跡したという逸話があります。 多くの植物のポリネーター(送粉者)であるハナバチがどの程度の採餌範囲を持っているのかは、昆虫…