扁形動物の社会性:吸虫の兵隊カースト

 ミツバチやアリなどの社会性ハチ類、そしてシロアリ類では、自らは繁殖しない階級(カースト)の存在が知られています(参考:真社会性)。例えば、ミツバチのワーカーは餌をとり幼虫の世話をしますが、自らは繁殖しません*1。繁殖するカーストとしないカーストでは形態的にも区別が可能です。例えば、シロアリや一部のアリでは、繁殖に関係せずコロニー防衛に特殊化した強力なアゴをもつ兵隊カーストが知られています。

 
 このような形態的な差異をともなうカーストの存在は、ハナバチ、アリ、寄生蜂、シロアリ、虫えい形成アブラムシ、虫えい形成アザミウマといった昆虫類以外にも、海綿類に住みつくテッポウエビ、イソギンチャク、さらには哺乳類であるハダカデバネズミにも知られてきました。


 カースト分化が進化しうる条件として、密閉した空間に血縁個体からなる集団(コロニー)を形成している状態があります。たとえば、寄生蜂の一種キンウワバトビコバチCopidosoma floridanum)では、雌によって寄主昆虫の体内に産み付けられた卵は多胚形成によって1000をこえる個体を生じます。これらの個体は遺伝的に同一のクローンですが、幼虫には二型が見られ、ひとつは正常に成長し繁殖を行う繁殖カーストで、もう一方は形態的に攻撃に特殊化した兵隊カーストで成長し繁殖に関わることはありません(寄主体内の競争者を攻撃する)。


 このような状況で兵隊カーストが生まれるなら、昆虫に限らず他の動物群でも見つかる可能性は高そうです。


 先日、英国王立協会紀要で発表された論文によれば、扁形動物門(Platyhelminthes)の吸虫類(Trematoda)で兵隊カーストの存在が確認されたようです。


 エキノストーマ科(Echinostomatidae)の一種(Himasthla sp.)は、寄主であるウミニナ属の一種(Cerithidea californica)の体内でクローン繁殖を繰りかえします。その結果、生じるクローン個体間で形態的にも明確に区別できる繁殖カーストと兵隊カーストの存在が確認されました。兵隊カーストは繁殖をおこなわず、繁殖カーストよりも小型ですが相対的に大きな口をもち、別種や同種別コロニーの吸虫類を積極的に攻撃します(論文では実際に攻撃している標本写真があってクリアな証拠といえます)。


近縁種や、似た生態をもつ吸虫類で、同様なカースト分化はこれからも見つかる可能性が高そうです。


文献
Hechinger RF et al. (2010) Social organization in a flatworm: trematode parasites form soldier and reproductive castes. Proceedings of the Royal Society B, online published.


ニュース他(サイトに画像あり)
Parasitic 'Warrior Worms' Discovered in Snails; Scientists See Possible Biomedical Applications


Bloodsucking Warrior Worms Destroy and Eat the Enemy


 カースト分化をともなう社会性は、ハチ・アリ・シロアリは古くから知られていたものの他の分類群については、20世紀後半になって発見されてきました。例えば、1970年代後半に青木博士によって発見されたアブラムシの兵隊カーストにはじまり、1980年代のハダカデバネズミや寄生蜂での発見、1990年代にはアザミウマ、テッポウエビでも発見されました。そうした歴史をみると、吸虫類での兵隊カーストの発見は21世紀に入っての大事な標石となりそうです。

*1:ただし、ワーカーの繁殖は、女王のフェロモンによって抑えられているものの、その効力が弱まったとき繁殖することもあります