植物の種多様性が食物網に与える影響

 とあるグループの種多様性が減少することで、食物網を通じて他の生物にどのような影響を与えるのでしょうか。


例えば、植物の種数が増えれば、それらを食べる植食者の種数が増えることが予想されます。では、植食者を食べる捕食者の種数や個体数は増えるのでしょうか、それとも増えないのでしょうか。


 ドイツのジェナという実験圃場(The Jena Grassland Diversity Experiment)において、植物の種数をコントロールし、そこに生息する食物網を解析した結果が発表されています。


 自然草本群集からランダムに選んだ60種の多年生草本を使って、それぞれ1種(プロット数 N=16)、2種(N=16)、4種(N=16)、8種(N=16)、16種(N=14)、60種(N=4)の種子をまいた合計82個のプロット(20m×20m)で、2002ー2006年の間にさまざまな生物群を定量的にサンプリングした。


結果、多くの生物群(地上植食者、地上捕食者、地上雑食者、捕食寄生者、病原菌、地下食食者、植物寄生線虫、トビムシ、菌根菌など)で植物の種数が増加すると、個体数および種数が増加する傾向が見られた。植物の種数増加にともない減少したのは、高次捕食寄生者、菌食線虫、ダニの個体数、侵入植物の種数と個体数だけだった。


 また、地上部および地下部の食物網を解析したところ、植物の種数増加によるボトムアップ効果が支持され、捕食者や植食者などによるトップダウン効果は支持されなかった。さらに、植物の種数増加による影響が強いのは、地上部植食者や地下部の植物寄生性線虫で、栄養段階が離れるに従い(捕食者など)その影響は減少していた。


 これらの結果から、植物の種多様性の消失は、多くの生物群に負の影響を与えることがわかった。また、植物の種数の変化は、隣接する栄養段階(植食者など)に影響を与え、その影響はさらに高次の栄養段階(捕食者など)へと段階的に波及していくだろう。


Scherber C et al. (2010) Bottom-up effects of plant diversity on multitrophic interactions in a biodiversity experiment. Nature online published


 この結果は、広く解釈するなら、農地や林地における作物や稚樹の単植と混植による害虫や天敵への影響など、応用面でも重要かもしれません。