私の大好きな生態学者であるハインリッチ(Bernd Heinrich)*1は、マルハナバチの採餌行動を調べるために、自ら走ってハチを追跡したという逸話があります。
多くの植物のポリネーター(送粉者)であるハナバチがどの程度の採餌範囲を持っているのかは、昆虫や植物の生態ばかりでなく、保全生物学にとっても重要な知見といえるでしょう。
新熱帯(中南米)に固有の美麗ハナバチであるシタバチ(orchid bee)は、熱帯林にひっそりと咲くランの重要なポリネーターであることはよく知られています*2。熱帯林では個々の種はかなりの低密度で生活しているので、シタバチが有効なポリネーターであるためには、採餌範囲が広いはずだといわれてきました。しかし、熱帯でハインリッチのように走って追跡するのは大変だし、何より熱帯林は樹冠が高いので追跡は困難です。
そこで、最近進歩しつつあるラジオ・テレメトリーをシタバチにとりつけてその広い採餌範囲を明らかにしたという研究が発表されました。これほど小さな昆虫に発信機とりつけることができるようになったことは技術の進歩を感じます。
小型ラジオテレメトリーを装着したシタバチ(Picture by Christian Ziegler)
これまでは、植物側のDNAによって花粉親を推定し、花粉が何kmにわたってポリネーターに運ばれたことが示唆されてきたわけですが、これからはポリネーターの移動距離を直接調べるのが主流になるかもしれません。