海南島固有のランはミツバチの警報フェロモンを発する

 植物とその受粉を担う動物(ポリネーター)との関係には、しばしば驚くようなつながりがあります。


 中国は海南島に固有のランで、ミツバチの警報フェロモンを真似た匂いを出し、その天敵であるスズメバチをおびき寄せて送粉してもらうらしい。


 世界で約3万種が知られるランのうち約3分の1の種は、花蜜といった報酬を出さずに何らかの手段を用いて訪花者をだまして送粉させる。その手段として、報酬のある花の香りや訪花者の交尾相手の匂いを真似ることが知られている。


中国の海南島に固有のランの一種(Dendrobium sinense)は、花蜜を出さないが、スズメバチの一種(Vespa bicolor)が花を訪れ送粉する。スズメバチがどのような匂いに惹かれてそのランを訪れるのかを明らかにするために、花の匂いを解析したところ、なんとミツバチ類(セイヨウミツバチ、トウヨウミツバチ)の警報フェロモンの主要成分が含まれていた。ミツバチ類は天敵に襲われた時に仲間に知らせるために警報フェロモンを発する。


行動実験の結果、この花の匂いや、警報フェロモンの主成分はいずれもスズメバチを惹きつけた。スズメバチはその幼虫の餌としてしばしばミツバチを襲うため、このランはミツバチの警報フェロモンの匂いを真似て、その捕食者であるスズメバチを誘い送粉してもらっているようだ。


文献
Brodmann J et al. (2009) Orchid mimics honey bee alarm pheromone in order to attract hornets for pollination. Current Biology 19: 1368-1372.


 海南島は、大陸からはとても近いので、特別に島固有に起こりうる現象とは思いません。ただ、南の島でこういう相互作用が見つかったというのに夢を感じます。それに、憧れの昆虫学者・岩田久二雄が数年過ごした島でもあります。


 自然界にはしばしば思ってもみなかった複雑な生物間相互作用が見られるのですが、そういった発見の論文を読むと、知的好奇心がくすぐられます。