ハワイから分散した植物

 ハワイ諸島において、さまざまな生物群が多様に分化し、多くの固有種が生まれてきました。また、多様化した一部の種が他の太平洋の島々に渡り、さらに種分化して多様性が増加するというメカニズムが明らかになりつつあります。


ハワイで多様化したショウジョウバエオカモノアラガイについて、他の太平洋の島々へ分散、分化した例を紹介しました。植物についても、同様な例があります。


 ミカン科メリコペ属(Melicope)*について、ハワイ産8種、マルケサス諸島産4種、タヒチ産1種、オーストラリア産1種、ロードハウ島産1種、外群のオーストラリア産1種、加えてMelicopeから極めて近縁だと考えられているハワイ固有属 Platydesma 2種について、核および葉緑体DNAを用いて系統解析を行った。



太平洋の島々(Googleより)


結果、ハワイ固有属の Platydesma 属2種は、ハワイ産 Melicope 属と姉妹群にあたり、おそらくオーストラリアからやってきた1祖先種がハワイで PlatydesmaMelicope に分化したことを示唆していた。さらに、マルケサス産 Melicope 属数種はハワイ産 Melicope 属のクレード内に見られることから、少なくとも1度、おそらく2度にわたって、ハワイ諸島からマルケサス諸島に分散して分化した可能性が高い。


 近年の分子系統解析により、太平洋の島々に分布する植物で、ハワイを起源とするものが見つかりつつある。Melicope 以外にも、Santalum(ビャクダン科)、Kadua(アカネ科)、Plantago(オオバコ科)がこれにあたる。また、ハワイ諸島固有種と姉妹群をもつグループとして、Tetramolopium(キク科)、Bidens(キク科)、Ilex(モチノキ科)、Cyrtandra(イワタバコ科)などがポリネシアに分布し、これらを詳しく調査すればハワイからの分散後分化したものが見つかるかもしれない。


 ハワイから分散した可能性のある植物は鳥に散布されるタイプの果実をつけるものが多い。アラスカからハワイ諸島を経由してポリネシアの島々に渡るムナグロ(Pluvialis fulva)などがこれらの長距離分散に関与しているかもしれない。


文献
Harbaugh DT et al. (2009) The Hawaiian Archipelago is a stepping stone for dispersal in the Pacific: an example from the plant genus Melicope (Rutaceae). Journal of Biogeography 36: 230-241.


 ショウジョウバエもマルケサス諸島に、オカモノアラガイタヒチ(マルケサス諸島の南西端)に分散し分化したことが示唆されているので、「ハワイ諸島→マルケサス諸島周辺」という分散経路はかなり一般的なのかもしれません。


確かに、ハワイの公園などの芝生でムナグロをよく目にするので、けっこうな数が渡りの中継地としてハワイを利用していそうで、植物の種子や小動物などが付着して運ばれたというのはありえる話かもしれません。誰か実験してほしいところです。


*日本からは、琉球列島に分布するアワダン(Melicopa triphylla)が知られているようです。