尖閣諸島の生物相と外来種問題

 尖閣諸島に関する話題の中、魚釣島でのノヤギ問題を解決しようという活動がはじまったようです(センカクモグラを守る会)。



「センカクモグラを守る会」設立記者会見


 ヤギはこれまでに尖閣諸島だけでなく世界のさまざまな島に放たれ、その強い増殖率によって密度が高まり、最終的に植生自体が破壊されることで多くの問題を引き起こしてきました。日本でも小笠原諸島で問題になり、島ごとに根絶が行われています。


 少しミーハーかもしれませんが、領有権問題で注目されている時に、尖閣諸島の生物相について紹介されるのは良い機会だと思います。そもそも島の固有種の重要性に国境は関係ないはずですから。


尖閣諸島の固有種はセンカクモグラだけではないのだけれど、重要そうな単一種*1を掲げて固有の生態系と多様性を保全しようという試みです。モグラを代表種としているのがちょっとユニークな点ですが、他の固有種はもっと目立たないマイナー種だからでしょう*2。おおまかな生物相についてはすでに出版されている資料があるので、固有種リストを下記に引用しておきます。


尖閣諸島の固有生物相とノヤギ問題については、下記の文献で日本語として読めるので興味のある人は必読です。

尖閣諸島とは


 最終氷期には大陸と陸続きであったと考えられる大陸島。魚釣島、北小島、南小島、久場島(黄尾礁)、大正島(赤尾礁)の 5つの島嶼といくつかの岩礁から成っている。魚釣島八重山諸島から150km、台湾から190km、ユーラシア大陸東岸から350kmの距離にあり、この諸島の中で最も大きいが、それでも面積はわずか3.8平方kmに過ぎない。



魚釣島の生物相


植生:北側の斜面のほとんどと南側の斜面の一部は森林に覆われており、その大部分でビロウ(Livistona chinensis var. subglobosa)が優占している。島の最高峰の奈良原岳の山頂は362mと高いため、島の中腹部から上には霧がよくかかり、湿潤熱帯域の雲霧林(常に霧のかかる環境下で適度な湿度と冷気のため蘚苔類や地衣類の密生した森林)に似た雲霧帯が発達している。斜山頂部の雲霧帯にはアマミアラカシ林が見られる。


ノヤギ問題:魚釣島にヤギが導入されたのは1978年で,日本の民間政治団体によって雌雄各1頭が与那国島から持ち込まれ、故意に放逐された。導入の目的は,同時に行われた建造物(一般には「灯台」と呼ばれている)の設置とともに、「領有権の主張のための既成事実づくり」とされている。1991年に行われた現時点で最新の上陸調査では、洋上から島の南斜面だけで約300頭が目撃されているが、この頭数は採食のため森林から出てきた個体のみを数えたものであり、実際には北斜面や森林の中にさらに他の個体がいた可能性が高い。1999年には朝日新聞社の航空機による上空から、島の北西部の崖上に存在していた草地の拡大や、ビロウ林の林縁植生の消滅が観察された。


哺乳類相:外来種を除くと固有種センカクモグラおよびセスジネズミ(Apodemus agrarius)が分布し,その他にクビワオオコウモリ(Pteropus dasymallus)の記録がある。


爬虫類相:トカゲ類2科3属3種、ヘビ類も同じく2科3属3種が知られている。


鳥類相:陸生鳥類は少なくとも34種が知られている。また、周辺の島々ではアホウドリDiomedea albatrus)など多くの海鳥が繁殖している。


昆虫相:現在までに50種・亜種(疑問種を除く)が確認されている(尖閣諸島全体では100種;屋富祖ら 2002)。固有種としては4種が知られる。


その他節足動物相:クモ類は固有種の可能性のある未記載も含め22種が知られている。甲殻類は、センカクサワガニと等脚類2種が記録されている。


陸生貝類相:18種が記録されている。


植物相:103科244属339種が記録されている。



魚釣島の固有種(変種)リスト


脊椎動物
センカクモグラ Mogera uchidai


節足動物
センカクキラホシカミキリ Glenea masakii
センカクズビロキマワリモドキ Gnesis senkakuensis
ウオツリナガキマワリ Strongylium araii
オキナワクロオオアリ Camponotus sp.
センカクサワガニ Geothelphusa shokitai
等脚類の1種 Trichoniscus sp.
等脚類の1種 Alloniscus sp.


軟体動物
タカラノミギセル Zaptyx takarai
タカラホソマイマイ Buliminopsis takarai


植物
センカクアオイ Asarum senkakuinsulare
センカクオトギリ Hypericum senkakuinsulare
センカクハマサジ Limonium senkakuense
センカクツツジ Rhododendron simsii var. tawadae
ムラサキチヂミザサ Oplismenus compositus var. purpurascens


引用文献
横畑泰志ほか(2009)尖閣諸島魚釣島の生物相と野生化ヤギ問題. IPSHU研究報告シリ-ズ (42), 307-326(PDF:312KB


 カミキリムシやゴミムシダマシ類、等脚類、陸貝類など、なかなか島らしい固有種がリストの中にしぶく光っています。いずれも森林性の種なので、ノヤギによって植生が破壊されている現在、生息域はかなり小さくなっているかもしれません。


 島はしばしば領有権問題でよくとりあげられますし、戦争でも最初に占有ターゲットにされます。そういった混乱によってそこにすむ生物たちは多くの影響を受けていると考えられます。昨今の生物多様性保全の現況から、島の固有種というのは各国の所有物というよりも、むしろ保全する義務が生じるうるものと考えるべきかもしれません。

*1:このような種には、フラッグシップ種(flagship species)や代替種(surrogage species)、アンブレラ種(umbrella species)などいくつか似た呼び方があります。いずれにしても、代表的な種を指定しその生息地を保全することで、生物相全体または生態系を保全することを目的としています。ただし、これら代表種の生息地を守ることだけで他の種をも保全できるかどうかは議論があります。

*2:代表種としては、たいてい哺乳類や鳥類といった目立つ種が掲げられますが、今回は目立たないモグラという意味です。