爬虫類による送粉と種子散布

 恐竜が種子散布を行っていたくらいですから、現存する爬虫類も植物との共生関係をもっていてもおかしくありません。実際、トカゲやヤモリが花を訪れて蜜を舐めたり、果実を食べたりすることは頻繁に観察されてきました。これらの観察結果を集計してみると、島嶼部で頻繁に見られる行動であることがわかってきました。



 訪花行動が観察されたトカゲ・ヤモリ類の37種のうち、大陸環境下ではわずか2種(5%)であるのに対し、島環境で35種(95%)であった。また、果実の摂食行動が観察された202種のうち、大陸環境下では64種(31%)であるのに対し、島環境下では127種(63%)だった(大陸と島の両方で見られたのは11種)。


 送粉(花粉媒介)の例としては、ニュジーランドのコモチヤモリの一種(Hoplodactylus)によるフトモモの一種(Metrosideros excelsa)への訪花(花粉も運搬)、地中海(スペイン)のバレアレス諸島に固有のリルフォードカナヘビPodarcis lilfordi)によるトウダイグサの一種(Euphorbia dendroides)など多くの植物種への訪花(結実率を増加させる)、タスマニアのトカゲの一種(Niveoscincus microlepidotus)によるヤマモガシの一種(Richea scoparia)への訪花行動、モーリシャスヒルヤモリ類(Phelsuma spp.)による多くの植物種への訪花行動などが知られている。


 種子(果実)散布の例としては、ニュージーランドのトカゲ・ヤモリ類18種による果実の摂食と散布、カナリア諸島の固有トカゲ類10種による果実の摂食、その他、カリブ海諸島、マスカリン諸島、セイシェル、フィリピン、ニューカレドニアパラオなどのトカゲ・ヤモリ類で果実食が知られている。


 なぜ島嶼環境下でトカゲ・ヤモリ類による送粉・種子散布が相対的に多いのか?可能性として主に4つの要因が考えられる。(1)島では花や果実といった資源が余分にある。(2)島ではトカゲ・ヤモリ類にとってのエサである節足動物が乏しい。(3)大型のトカゲ・ヤモリは植物質のエサに前適応していた。(4)島ではトカゲ・ヤモリ類に対する捕食圧が低く密度が高くなっている。


文献
Olesen JM, Valido A (2003) Lizards as pollinators and seed dispersers: an island phenomenon. Trends in Ecology and Evolution 18: 177-181.


 他の爬虫類として、植食性のリクガメ類が重要な種子散布者となっていることもあります(例えば、モーリシャスのアルダブラゾウガメなど)。


 モーリシャスヒルヤモリ類Phelsuma spp.)は昼行性という興味深い生態に関連して、その美しい体色と愛嬌のある表情で注目を集めています。この種は、さまざまな植物の花を訪れたり、果実を食べるようで、島環境で食性が広くなったのかもしれません(参考:海洋島では ‘Super Generalist’ が進化する)。


モーリシャスの絶滅危惧植物の中には、ヒルヤモリにのみ送粉と種子散布を頼っている種がいて、近年、外来アリ(アシジロヒラフシアリ)によってその共生系が撹乱されているそうです(参考:島に侵入した外来アリが固有鳥類による種子散布を阻害する?)。


ヒルモリー植物共生系と外来アリによる影響のページ(写真あり)
http://blogs.nationalgeographic.com/blogs/news/chiefeditor/2008/12/ants-geckos.html


文献
Hansen DM et al. (2008) Seed dispersal and establishment of endangered plants on oceanic islands: The Janzen-Connell model, and the use of ecological analogues. PLoS ONE 3(5): e2111.


Hansen DM & Muller CB (2009) Invasive ants disrupt gecko pollination and seed dispersal of the endangered plant Roussea simplex in Mauritius. Biotropica 41(2): 202-208.


Olesen JM et al. (2002) Invasion of pollination networks on oceanic islands:importance of invader complexes and endemic super generalists. Diversity and Distributions 8: 181-192.


 ちなみにハワイには元来トカゲ・ヤモリ類がいなかったと考えられています(現在はたくさんいます)。小笠原諸島ではオガサワラトカゲという在来種がいますが、今のところ植物との関係性は明らかになっていません。どうも、太平洋よりも、インド洋や大西洋の島々でトカゲ・ヤモリ類と植物の共生系(またはその研究)が多い気がします。