生物的防除の成功率

 問題となる外来種の個体群を低密度に抑える(コントロール)するために、原産地から天敵を導入するという(古典的)生物(的)防除は、どれくらいの率で成功しているのでしょうか。


 持ち込まれた外来種のうち10%が野外に逸出し、その10%が定着し、定着したうちのさらに10%が侵略的(害虫・害草)になりうるという「外来種の十分の一法則」がありますが、生物防除の場合には故意に外来種を定着させるので導入圧も高くなり定着率などはこの法則よりは高くなります。


 農作物害虫(植食性昆虫)を防除するために導入された寄生蜂および寄生バエについて、その定着率および防除の成功例について世界的なデータベースを使って調査した。


合計;1377 例
定着失敗:960 例
定着:271 例
防除成功:146 例


つまり、防除成功率は10.6%であった(導入後の定着率は30.3%、定着したうちの35%が防除に成功)。


しかし、防除成功率は、寄生蜂や寄生バエがターゲットとする昆虫(植食性昆虫)の摂食タイプ、つまり、潜葉タイプ(葉肉組織に入り内部を食べるタイプ:Leaf miners)、外部食タイプ(何からも隠れず葉上で食べるイモムシ、ケムシなど:External folivores)、葉巻タイプ(葉を巻いたり重ねたりして隠れながら食べる:Leaf rollers/tiers)、複合タイプ(生育段階によって外部食タイプとその他のタイプの両方:Species with mixed exophytic-endophytic feeding biology)、穿孔タイプ(茎、花、果実、種子などに穿ち内部を食べる:Concealed species such as stem, flower, fruit and seed borers)、根食タイプ(土の中に潜り根を食べる:Root feeders)によって大きく異なっていた。


摂食タイプ:防除成功率
潜葉:18.0%
外部:13.0%
葉巻:12.2%
複合;12.2%
穿孔:8.7%
根食:6.8%


 潜葉タイプでは、天敵に対する防御(葉)がうすく、かつ葉内という限られた場所にいるため見つかりやすい(外部からもすぐにわかる)ため、もともと天敵となる寄生蜂が多く寄生率も高くなりやすい。逆に穿孔タイプや根食タイプでは天敵(特に寄生蜂・ハエ)に対する物理的な防御(樹皮、土など)があついため寄生蜂に襲われにくく(種数も少ない)、寄生率が低いという要因がある。


 つまり、害虫でも、その生活タイプにより、生物防除の成功率は異なる結果を招きやすい。


文献*
Hawkins BA, Gross P (1992) Species richness and population limitation in insect parasitoid-host systems. American Naturalist 139:417-423.


 もちろん過去数十年にわたる導入歴から算定した値なので、過去と近年で成功率が変動しているかどうかはわかりません(しかも寄生蜂・バエだけのデータ)。


ただ、1割程度の成功率と、そのリスクを考えて判断しなければならないということです・・・(参考:生物防除の落とした影 1, 2, 3, 4, 5)。




*原著論文では、同時に寄生蜂・バエ群集との関係も調査しており、調査の目的が若干違っています(もちろん結論自体が異なるわけではありません)。