被子植物以前:シリアゲムシによる送粉

 ハナバチ、ハエ、チョウが花を訪れ蜜を吸い、そのお返しに花粉を運んで受粉する(以後、送粉と呼ぶ)。そんな被子植物と昆虫の共生関係はいたるところで観ることができます。ハナバチやハエ、チョウ類では花蜜を効率良く摂取するために口器を特殊化させた種類も多くいます。


 被子植物が栄える前(中生代中期以前:おおよそ1億年前以前)にはシダ種子植物裸子植物などが主な陸上群落を構成していたと言われています。これらの植物は、風によって花粉をとばしてたと考えられていますが、実はこの時代にも送粉を担う昆虫類がいたのではないかいう興味深い仮説がサイエンス誌にて提唱されました。しかも、その候補となる昆虫とは、シリアゲムシ類だというのです。


 シリアゲムシは長翅目(Mecoptera)に属するみるからにヘンテコな昆虫です*1。和名が示すように、成虫のお尻を上げるのが大きな特徴で、英語ではサソリのような尾に見えるので「スコーピオン・フライ(Scorpionfly)」と呼ばれています。


 論文では、ユーラシア大陸から絶滅したシリアゲムシ目3科(Mesopsychidae, Aneuretopsychidae, Pseudopolycentropodidae)11種21個体の化石を使って口器構造を詳細に調べ(6新種を記載)、それらの口器は植物質の液体を摂取するために長い口吻へと特殊化していたと推定されました。これらの分類群は、中期ジュラ紀(Middle Jurassic)の後半から初期白亜紀(Early Cretaceous)の後半にいたる6200万年間にかけて存続していたようで、同時代に化石として見つかる被子植物以外の種子植物(シダ種子植物裸子植物など)の送粉を行っていた可能性があるそうです。


また、この時代の種子植物の花粉には風媒にしては大きすぎる種があり、これも虫媒があった可能性を示唆しています。しかも、送粉者として代表的なハナバチやチョウ(またはガ)は現在ほど優占していなかったようで、逆にシリアゲムシ類は現在よりも多様性が高かった可能性があります。


裸子植物などでは、飛散した花粉を受け止めるために受粉滴とよばれる液体を分泌することが知られていますが、この液体をシリアゲムシ類が摂取することで送粉を行うようになったのかもしれません。



現生のシリアゲムシの一種(上記の絶滅した科の化石種はもっと口吻が長かったようです)


文献
Ren D et al. (2009) A probable pollination mode before Angiosperms: Eurasian, long-proboscid scopionflies. Science 326:840-847.


Ollerton J, Coulthard E (2009) Evolution of animal pollination. Science 326: 808-809.


 現生のシリアゲムシ類は、主に動物質の餌を食べると考えられていますが、植物質の餌も食べることは可能でしょう。完全に特殊化したものではないにしても、シリアゲムシによって送粉される植物が現在でも見つかるかもしれません。

*1:分散力は小さく、海洋島のような環境には分布しないのが大きな特徴でもあります