多様性

被子植物の未記載種数の推定

熱帯の節足動物の未記載種の多さを紹介したわけですが、ちょうど被子植物の推定種数についての論文が英国王立協会紀要に出版されています。 これまでの期間記載されてきた努力量を考慮したモデルで推定を行い、専門家の推定値をと比較して検討しています。結…

種の記載がすべて終わるのは何年後か?

名前も未だついていない節足動物の種数は膨大です。いちいちニュースにもなりませんが、毎日のように新種が発見され新たに記載されています。いつになったら全生物種のカタログは完成するのでしょうか。 そもそも、「地球上には何種類の生物が生息しているの…

絶滅危惧種ほど研究されやすいか?

パンダやライオンのようなカリスマ的人気のある大型哺乳類が絶滅の危機に瀕しているといえば、多くの人がその保護に関心をもつことでしょう。しかし、あまり注目されていなくても、同程度に絶滅の危機に瀕している動物は山のようにいます。また、絶滅危惧種…

生物地理学の教科書

「Biogeography 3rd edition」出版からおよそ5年、はやくも4th editionが出版される模様です。 Lomolino、Riddle、Brownといった従来の著者に、「Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation」や「Journal of Biogeogaraphy」の編者でおなじ…

海より陸上で種多様性が高い理由

海より陸上で生物の種数が多いのはなぜか?*1 この理由に関する仮説が、サイエンス誌にとりあげられていました。ネイチャーやサイエンスでは、原著論文、総説以外にも、ちょっとしたトピックについてライターが取材して書いている場合があって、具体的な引用…

半島効果(Peninsula Effect):半島部に種の多様性勾配はあるのか?

半分の島と書いて「半島」、また英語の「peninsula(半島)」は「pen(ほとんど)+insula(島)」が語源だそうです。 実際、基部がくびれた半島は、ほとんど島のようにみえることもあります。ということは、半島でも島と同様な種の多様性パターンを示すとし…

外来植物の島嶼生物地理

島の面積とともに種数が増加する(参考:島面積と種数の関係)。また、島が本土(Mainland)から遠ざかる(隔離度が増す)につれ種数が減少する。これは、絶滅率が島の面積とともに減少すること、そして移入率が島の隔離度とともに減少することによって説明…

ホットスポットとは

ナショナルジオグラフィック ニュースから 南硫黄島沖の海底火山:火山島 南硫黄島沖の海底火山:噴煙 南硫黄島沖で海底火山が噴火しているらしい。北硫黄島、硫黄島、南硫黄島は、火山列島と呼ばれるように、比較的最近の火山活動で形成された島です。もし…

核実験によるサンゴの絶滅

生物個体群が絶滅する要因として、人為的な撹乱が近年大きなものとなっています。人為的な撹乱の中でも、もっとも大きなものとして核実験があります。 1946年にビキニ環礁で行われた原爆実験(US Federal Government: Wikipedia より) ビキニ環礁(Bikini A…

筆箱効果:地球の幾何学的なパターンから多様性勾配を説明できる?

高緯度地域(極、寒帯、温帯)から低緯度地域(熱帯)に向かうにつれ生物の種数が多くなるのはかなり一般的な現象です。この多様性勾配を生み出すメカニズムとして、低緯度地域の方が生物種間の関係が深いという仮説や、高緯度ほど分布域が広くなるという仮…

ラポポートの法則(Rapoport's Rule):緯度の増加とともに分布域は広がる?

温帯より熱帯の方が種数が多い。 というのは、さまざまな生物群で見られるかなり一般的な傾向でしょう(参考:なぜ熱帯に植食性昆虫が多いのか?、または、熱帯ほど生物の種間関係が深い)。横軸に緯度をとり、縦軸に種数をとると、赤道から高緯度にかけてし…

ハワイトラカミキリの進化

ハワイ諸島では、ただ1種の祖先から多くの種に分化してきた動植物がいくつも知られています。キキョウ科のロベリア類(126種)、カタツムリのハワイマイマイ(100種)、ハワイショウジョウバエ(800種以上)、カザリバガ(350種以上)、ハワイメンハナバチ(…

SLOSS 論争からアマゾンでの森林断片化大規模実験(BDFFP)へ

マッカーサーとウィルソンによる島嶼生物地理学の平衡理論が提唱され(1963年、1967年)、この理論が国立公園など保護区の設定への応用が試みられました(1970年代前期ー中期)。さらに、保護区は、単一の大面積がいいのか、複数の小面積がいいのか(Single …

熱帯ほど生物の種間関係が深い

生物間の相互作用に関して、観察したり、文献を読んだり、論文を書いたりするのが、私の研究の大きな割合を占めています。最新の Annual Review に興味深い総説が出ていたので勉強してみました。 ほとんどすべての生物で低緯度地域(熱帯)の方が、高緯度地…

ハワイから分散した植物

ハワイ諸島において、さまざまな生物群が多様に分化し、多くの固有種が生まれてきました。また、多様化した一部の種が他の太平洋の島々に渡り、さらに種分化して多様性が増加するというメカニズムが明らかになりつつあります。 ハワイで多様化したショウジョ…

ニュージーランドにおけるチッチゼミの多様性

今日は久しぶりのセミナーがあったので参加しました。ニュージーランドのセミの分子系統に関する発表でした。 ハワイ諸島やガラパゴス諸島といった隔離された海洋島には、もともとセミが分布していないことはよく知られています。しかし、ニューカレドニアや…

ハワイ諸島におけるオカモノアラガイの進化

オカモノアラガイというのは陸生の巻き貝(つまりカタツムリ)の一種です。一般にモノアラガイと呼んでいるのは淡水生の巻き貝です。 オカモノアラガイ科(Succineidae)は世界中に広く分布しています。飛ぶことも海水にもほとんど耐えられないにもかかわら…

ニッチ保守性(Niche Conservatism)

ニッチ保守性(Niche Conservatism)という用語の定義と使用について勉強してみました。 ニッチ(生態的地位)とは、種が生息可能で、個体群を維持できる状態のことを指します。その状態には、非生物的な要因(気候など)と生物的な要因(競争、捕食)の両方…

適応放散と非適応放散

「適応放散(Adaptive radiation)」という用語は、海洋島のような特異な生物相を説明する上でしばしば使われます。 一般には、同一地域において、単一祖先から多様な生態的地位(Niche)に適応した種に繰り返し分かれていくことを意味しているように思いま…

ハワイ固有ハナバチの起源と急速な種分化

ハワイ諸島にはもともとミツバチやマルハナバチ、ハリナシバチといった社会性のハナバチ類はもともと分布していませんでした(現在では人の手で持ち込まれ定着している)。 社会性ハナバチの女王は、海を渡って隔離された島に渡ることができないことと関係が…

ハワイ固有コオロギの急速な種分化

ハワイ諸島は、各島のおおよその形成年代がわかっているため、その値を使って、各島の島固有種の起源を推定することがしばしば行われています(参考)。例えば、現在ハワイ島にのみ分布する固有種は、ハワイ島の形成時期である43万年前より昔には分化してい…

ハワイから広がる多様性

大学はすっかり夏休みという感じで学生もまばらです。研究室のRさんも出張と帰省をかねて欧州に旅立ちました。二ヶ月ほど帰ってこないそうなので、研究室も少し気が抜けた感じです。ということで、夏休み中はセミナーがないかと思っていたのですが、今日は臨…

なぜ熱帯に植食性昆虫が多いのか?(まとめ)

熱帯林ではなぜ植食性昆虫の種が豊富なのか? 熱帯林での植食性昆虫の多様性に関する論文を何編か読んできました。これまでの研究をまとめた総説が出ていますので、これに沿って整理しておきます。 主に四つの要因によって、熱帯林では温帯林よりも植食性昆…

熱帯ほど植食性昆虫の寄主植物特異性は高いか?

植食性昆虫の寄主植物特異性が高いとは、餌として利用する植物の種数が少ないことを意味します。つまり究極には1種類が最も高い寄主特異性です。古くから、熱帯の植食性昆虫ではこの寄主特異性が高いと言われてきました。 しかし熱帯ではイチジクのような近…

世界で最も絶滅してしまった生物とは・・・

すでに地球上から姿を消してしまった絶滅生物といえば何を思い浮かべるでしょうか。最近では中国のヨウスコカワイルカが絶滅したと言われて話題になりました。日本だとニホンアシカが絶滅種です(そういえば、最後の記録は竹島でした)*。 絶滅種に関しては…

植食性昆虫群集の熱帯林と温帯林での比較

熱帯林には非常に多くの種類の節足動物が生息していることが知られています。 しかし温帯に比べどれくらい熱帯で種数が多いのでしょうか。植物の葉っぱを食べる植食性昆虫の種数を、寄主植物との関係に着目し、熱帯と温帯で比較した研究があります。 ニュー…

地球上には何種類の生物が生息しているのか?

地球上に何種類の生物がいるのでしょう。 答え:わかりません。 現在名前がつけられているだけで百数十万種類と言われていますが、名前もついていない種類がどれだけ生息しているかわからないからです。しかし、推定は可能かもしれません。Terry L. Erwin と…

種数の多い島ほど固有種が生まれやすいか?

これまで固有種というのは、ハワイ諸島固有種とか、小笠原諸島固有種といった諸島固有の意味で使ってくることが多かったように思います。そういった固有種の中には、オアフ島固有種、カウアイ島固有種といったように、特定の島にしか見られない単島固有種(s…

島が大きくなるほど種分化がおこりやすい

島の面積ー種数関係(島が大きくなると種数が増える関係)は、島における種の移入と絶滅によって生じます(参考)。つまり、島における移入率は島の面積とともに増加し、絶滅率は島の面積の増加に対し減少し、その動的平衡点がその島の種数となるというわけ…