植食性昆虫群集の熱帯林と温帯林での比較

 熱帯林には非常に多くの種類の節足動物が生息していることが知られています。


しかし温帯に比べどれくらい熱帯で種数が多いのでしょうか。植物の葉っぱを食べる植食性昆虫の種数を、寄主植物との関係に着目し、熱帯と温帯で比較した研究があります。


 ニューギニア島の熱帯林とユーラシア大陸中央ヨーロッパスロバキアおよびチェコ東部モラヴィア)の温帯林において、主要樹種ごとに葉食性の昆虫の徹底したサンプリングを行い、葉面積あたりの植食性昆虫(鱗翅目幼虫、鞘翅目幼虫と成虫、膜翅目幼虫、直翅目成虫)の種数を比較した。結果、熱帯林では葉面積100m2あたり29.0種、温帯林では23.5種と、大きな違いはなかった。ただし、鱗翅目(チョウ・ガ)幼虫では温帯林の19.3種より熱帯林の9.2種の方が少なく、鞘翅目(甲虫)成虫では温帯林の5.5種より熱帯林の9.5種の方が多く、膜翅目(ハチ)幼虫では温帯林の1.8種より熱帯林の0種の方が少なかった*。また、系統を考慮したそれぞれの14の樹種での、寄主特異性を調査したところ、温帯林と熱帯林で有意な差は検出されなかった。つまり、寄主植物あたりの植食性昆虫の平均種数は熱帯と温帯では変わらなかった。


 以上の結果から、熱帯林での植食性昆虫の種の豊富さは、寄主植物の種多様性に直接関連している。


文献
Novotny et al. (2006) Why are there so many species of herbivorous insects in tropical rainforests? Science 313: 1115-1118.


 ちょっと意外な結果です。個々の樹種あたりの植食性昆虫の種数は熱帯と温帯でかほとんど変わらないけれど、熱帯の方が温帯より樹木の種数は圧倒的に多いので、熱帯の方が温帯より植食性昆虫の種数が多いという結論でした。


 ニューギニア島を熱帯林の代表とし、中央ヨーロッパを温帯林の代表として両者を比較するのは少し苦しいかとは思いますが、地理的にも生態的にも全く違う林で差がなかったことに驚くべきなのかもしれません。



*植食性昆虫の膜翅目とはハバチ類のことを示しています。ハバチ類は熱帯より温帯の方が種数が多いグループです。他の昆虫では、ヒメバチ類、アブラムシ類も温帯の方で種数が多いことが知られています。