世界で最も絶滅してしまった生物とは・・・

 すでに地球上から姿を消してしまった絶滅生物といえば何を思い浮かべるでしょうか。最近では中国のヨウスコカワイルカが絶滅したと言われて話題になりました。日本だとニホンアシカが絶滅種です(そういえば、最後の記録は竹島でした)*。


 絶滅種に関しては、国際自然保護連合(IUCN)によってレッドリストと呼ばれるデータベースが作られており、誰でも調べることができます。毎年データは少しずつ追加され更新されています。2008年のデータベースをもとに絶滅数の傾向を見ることにしましょう。


IUCN (2008) IUCN Red List of Threatened Species.
http://www.iucnredlist.org/


 データベースを使って、絶滅種(野生も飼育下でもすべて絶滅し多種)で検索すると、(紀元後)1500年以来絶滅したと考えられるのは合計804種。そのうちわけを見ると・・・


動物(合計717種)
脊索動物:360
軟体動物:288
節足動物:67
環形動物:1
扁形動物:1


植物(合計87種)
維管束植物:80
コケ植物:3
シダ植物:3
紅色植物:1



 意外にも植物の絶滅種は少ない感じがします。結局、門(phylum)でみると、一番多いのは、脊索動物(360種)で、次に多いのが軟体動物(288種)ということになります。圧倒的な種数を誇るはずの昆虫類を含む節足動物はわずか67種(昆虫類は60種)でした。


 次に最も多い2つの門の内訳をみてみましょう。


脊索動物(合計360種)
鳥:134
条鰭(魚類):90
哺乳:76
頭甲(ヤツメウナギ類):1
両生:38
爬虫:21


軟体動物(合計288種)
腹足:257
二枚貝:31


 なんと、軟体動物の腹足綱(巻貝など)が最も多い絶滅種数257が記録されています。次に鳥綱の134種が続きます。絶滅した種で、鳥の名前を多く挙げることができる人は多いでしょうが、絶滅した貝の名前をあげることができる人はほとんどいないでしょう。


 巻貝といえば、サザエなど海の貝をイメージする人も多いかとは思います。さらに腹足綱のうち、どのようなハビタットに生息する種で絶滅種が多いのかを調べてみると・・・


腹足(合計257種)
陸性:196
淡水性:57
海水性:4


 なんと、陸性の巻貝(つまり、カタツムリ)が最も多いということがわかりました。



図. この500年の絶滅種数(カタツムリだけで鳥の絶滅種数より多い)


 絶滅率でいえば哺乳類と鳥類が最も高いのですが、絶滅数でいえば、巻貝、しかも陸貝類(カタツムリ)が最も多いということです。


絶滅率(絶滅種数/記載種数 × 100)
哺乳類:76 / 4500 × 100 = 1.7%
鳥類:134 / 9000 × 100 = 1.5%
陸貝:196 / 24000 × 100 = 0.8%


さらに、どのような地域でカタツムリの絶滅種が多いかを調べてみると・・・


島嶼(合計190種)
ハワイ諸島:58
フレンチポリネシア:57
セント・ヘレナ:19
クック諸島:14
モーリシャス:12
小笠原諸島:8
カリブ諸島:5
ノーフォーク諸島:5
マヨーテ:3
レユニオン:3
グアム:2
ニューカレドニア:2
米領サモア:1
北マリアナ諸島:1
セイシェル:1


大陸など(合計6種)
オーストラリア:2
イスラエル:1
ブラジル:3


 なんと97%が島にすむカタツムリたちであったのです(鳥類でも同様に島で絶滅数が多い傾向があります)。


もちろん、鳥類などと比べて調査がされていないので若干の過大推定があるかもしれませんが(今後絶滅種の再発見が期待されるという意味)、一方で他の多くの種がすでに絶滅しているかもしれないという過小推定の可能性もあります。


例えば、ハワイ諸島には約800-1000種ほどの陸産貝類の固有種が記録されていますが、その90%がすでに絶滅したのではないかという推定もあるくらいです(上記ではハワイ諸島の絶滅数は58種ですが、その推定だと700-900種にもおよんでしまいます)。


 種の保全という意味で、いかなる生物も同様の価値があるとするならば、もう少し島のカタツムリたちに注目してあげても良いでしょう。


参考文献
Lydeard C et al. (2004) The global decline of nonmarine mollusks. BioScience 54: 321-330.


*IUCN 2008のリストに記載されている日本での絶滅種(他の国で生き残っている種や亜種を除く)**は、ニホンアシカの他に、鳥類4種(小笠原産3、琉球産1)、陸貝類8種(いずれも小笠原産)の合計13種で、世界的な傾向と近いかもしれません。


**日本産種に関しては、環境省が作成している日本産レッドデータブックの方がより詳しいでしょう(IUCNのリストには漏れがある)。


日本のレッドデータ
http://www.jpnrdb.com/