ハワイミツスイ類が絶滅した原因

 ハワイ諸島での絶滅や種の保全外来種による影響などを語る上で欠かせない事例としてハワイミツスイ類があります。あまりに有名な話なので、これまで特別にとりあげてきませんでしたが、2009年に良い総説論文が出ていたのでそれを含めてざっと紹介しておきます。


 ハワイミツスイ類(ハワイミツスイ亜科:Drepanidinae) は「ハニークリーパー(honeycreeper)」と呼ばれ、新大陸からやってきた1祖先種から20属50種以上に分化したと言われているハワイ固有の鳥類です。同じくガラパゴス諸島適応放散したダーウィンフィンチ以上にその形態(色彩、嘴の形)の多様性が高いことで知られています。例えば、黒い羽毛をもつものから赤い羽毛をもつ種、イカルのような嘴をもつものから花吸蜜に特殊化した嘴をもつ種などが知られています。


しかし、古くから入植した人々によって生息地(主に森林)が奪われ、一部の種は装飾目的で乱獲されてきました。これによって多くの種が失われ、さらに西洋人の入植後、外来鳥類が持ち込んだ鳥マラリアなどの感染症の蔓延でさらなる種が絶滅したと言われています。


近代まで生存が確認されていた41種のうち、17種がすでに絶滅し、13種が絶滅寸前にある状態です。わずか3種だけが比較的安定して生息していると言われています。


ハワイミツスイ類の多様な形態(すべて絶滅種:左上 オオ Moho nobilis;右上 ライサンミツスイ Himatione sanguinea freethii;左下 アキアロア Hemignathus ellisianus;右下 ハワイマシコ Chloridops kona


ハワイ名 (学名): ICUNのランク / 合衆国のランク

  1. Lana`i hookbill (Dysmorodrepanis munroi): 絶滅 / 絶滅
  2. Lesser koa-finch (Rhodacanthis faviceps): 絶滅 / 絶滅
  3. Greater koa-finch (Rhodacanthis palmeri) 絶滅 / 絶滅
  4. Kona grosbeak (Chloridops kona): 絶滅 / 絶滅
  5. Greater `amakihi (Hemignathus sagittirostris): 絶滅 / 絶滅
  6. Lesser `akialoa (Hemignathus obscurus): 絶滅 / 絶滅
  7. O`ahu`akialoa (Hemignathus ellisianus ellisianus): 絶滅 / 絶滅
  8. Lana` i `akialoa (Hemignathus ellisianus lanaiensis): 絶滅 / 絶滅
  9. O`ahu nukupu`u (Hemignathus lucidus lucidus): 絶滅 / 絶滅
  10. O`ahu`alauahio (Paroreomyza maculata): 絶滅寸前 / 絶滅
  11. Kakawahie (Paroreomyza flammea): 絶滅 / 絶滅
  12. Lana`i `alauahio (Paroreomyza montana montana): リスト外 / 絶滅
  13. O`ahu`akepa (Loxops coccineus wolstenholmei): リスト外 / 絶滅
  14. Ula- `ai-hawane (Ciridops anna): 絶滅 / 絶滅
  15. Hawaii mamo (Drepanis pacifica): 絶滅 / 絶滅
  16. Black mamo (Drepanis funerea): 絶滅 / 絶滅
  17. Laysan honeycreeper (Himatione sanguinea freethii): リスト外 / 絶滅
  18. `O`u (Psittirostra psittacea): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  19. Kaua`i `akialoa (Hemignathus ellisianus procerus): 絶滅 / 絶滅危惧
  20. Kaua`i nukupu`u (Hemignathus lucidus hanapepe): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  21. Maui nukupu`u (Hemignathus lucidus affinis): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  22. Maui `akepa (Loxops coccineus ochraceus): 絶滅危惧 / 絶滅危惧
  23. Po`ouli (Melamprosops phaeosoma): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  24. Laysan finch (Telespiza cantans): 危急 / 絶滅危惧
  25. Nihoa finch (Telespiza ultima): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  26. Palila (Loxioides bailleui): 絶滅危惧 / 絶滅危惧
  27. Maui parrotbill (Pseudonestor xanthophrys): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  28. `Akiapola`au (Hemignathus munroi): 絶滅危惧 / 絶滅危惧
  29. Hawaii creeper (Oreomystis mana): 絶滅危惧 / 絶滅危惧
  30. Hawaii `akepa (Loxops coccineus coccineus): 絶滅危惧 / 絶滅危惧
  31. `Akohekohe (Palmeria dolei): 絶滅寸前 / 絶滅危惧
  32. `Akikiki (Oreomystis bairdi): 絶滅寸前 / リスト候補
  33. `Akeke`e (Loxops caeruleirostris): 絶滅寸前 / リスト外
  34. Hawaii `amakihi (Hemignathus virens virens): 軽度の懸念 / リスト外
  35. Maui `amakihi (Hemignathus virens wilsoni): 軽度の懸念 / リスト外
  36. O`ahu `amakihi (Hemignathus flavus): 危急 / リスト外
  37. Kaua`i `amakihi (Hemignathus kauaiensis): 危急 / リスト外
  38. `Anianiau (Hemignathus parvus): 危急 / リスト外
  39. Maui `alauahio (Paroreomyza montana newtoni): 絶滅危惧 / リスト外
  40. `I`iwi (Vestiaria coccinea): 危急 / リスト外
  41. `Apapane (Himatione sanguinea sanguinea): 軽度の懸念 / リスト外


IUCNレッドリスト
絶滅 (extinct):14種
絶滅寸前 (critically endangered): 10種
絶滅危惧 (endangered): 6種
危急 (vulnerable): 5種
軽度の懸念 (least concern): 3種
リスト外 (nd): 3種


合衆国リスト
絶滅 (extinct):17種
絶滅危惧 (endangered): 14種
リスト候補 (candidate for listing): 1種
リスト外 (nd): 9種


引用文献
Atkinson CT, LaPointe DA. (2009) Introduced avian diseases, climate change, and the future of Hawaiian honeycreepers. Journal of Avian Medicine and Surgery 23(1):53-63.


和名について知りたい方はこちら
Wikipedia: ハワイの野鳥一覧


 20世紀以降のハワイミツスイ類の絶滅や減少の主要因として、外来鳥類とともに持ち込まれた感染症が注目されてきました。鳥マラリアと鳥ポックスです。


 鳥マラリアとは、原生動物 Plasmodium 属の原虫により感染する病気で、吸血性の蚊によって媒介されます。ハワイでの移入時期は不明ですが、20世紀初期(1900-1960年)の愛鳥家による東南アジア産、南北アメリカ産、アフリカ産の(スズメ目の)放鳥によって持ち込まれた可能性が高いようです。外来鳥類は100以上の導入記録がありますが、結果として50種が帰化したと言われています。鳥マラリアは、1930年代にハワイ島において外来種であるソウシチョウメジロから正式に記録されています。過去30年間の調査では、外来種よりも在来の森林性鳥類(ハワイミツスイ類を含む)で一貫して高い感染率が記録されています。


 鳥ポックスはAvipoxvirus 属ウィルスの接触感染による病気で、主に吸血節足動物(蚊など)により感染が広まります。移入時期はこれまた不明ですが、19世紀の終わりには病症の記録あります。また、18世紀の終わりまで生息していた在来鳥類の博物館標本から、PCRによって増幅したDNA産物が記録されています。


いずれの感染症も、もともとハワイにはなかったものです。ハワイで独自に進化してきた鳥類では抵抗性が低く、感染後に死亡する個体が多いことが致命的でした。一方、外来鳥類には抵抗性があるものも多く、感染しても必ずしもすぐに死なないため、これが感染を広げた要因でもあります。


 これら感染症を媒介する有力な蚊としてネッタイイエカ(Culex quinquefasciatus)がいます。もともとハワイには蚊は分布していませんでしたが、本種は19世紀にハワイ諸島に持ち込まれたと考えられています。


 感染症がハワイミツスイ類などに与える影響が実験的に調べられるようになったのは、1950年代になってのことです。カウアイ島の低地に、在来の森林性鳥類4種、ライサンフィンチ (Telespiza cantans)とアパパネHimatione sanguinea sanguinea)、カウアイアマキヒ(Hemignathus kauaiensis)、アニアニアウ (Hemignathus parvus) を鳥かごにいれて野外に放置し蚊の吸血にさらしました。その結果、かごに入れられた個体は、鳥マラリアや鳥ポックスで次々に死亡しました。このシンプルで明快な実験を足がかりに、1970年代にハワイ島で詳細な調査が行われ、鳥マラリアによる在来鳥類への影響が明らかになってきたというわけです。


ただし、鳥マラリアや鳥ポックスが絶滅の直接要因であるという証拠は十分ではありません。例えば、鳥マラリアが正式に発見される以前、つまり19世紀の終わりに最初の絶滅の波が、そして1910年より後に再び波があったからです。しかも、鳥マラリアなどの本格的調査が行われる1970年代より以前の記録は、私的観察が主流であり証拠が十分ではないというわけです。


 いずれにせよ、これら感染症によってハワイミツスイ類を含む森林性鳥類が劇的に減少したのは確かです。それは、ベクターである蚊の分布と在来鳥類の分布からも明らかになっています。ベクターである蚊は標高600mより高くなると急速に個体群密度を減らします(しかし2500mまで蚊は分布する)。標高1500mより下では、蚊の個体数と在来鳥類の個体数が負の相関を示しています。また、鳥マラリアへの耐性を調べたところ、耐性が低い種の密度は、1500mよりも高い地域でピークがあります。つまり、蚊による感染症の拡大で、低い標高域では多くの種が姿を消し、蚊の繁殖が低調な高標高域にのみに見られるようになったというわけです



ワイ島において標高にそった、在来鳥類、鳥マラリア、蚊の相対的な個体数/頻度(van Riper et al. 1986より)


 ただし、ハワイミツスイ類でも、鳥マラリアによる耐性は異なっているようで、例えば、イイウィ(Vestiaria coccinea)の方がアパパネHimatione sanguinea sanguinea)よりも感染後の死亡率が極めて高いことが報告されています。


 ハワイミツスイ類を脅かす要因は、感染症だけではありません。外来鳥類との資源をめぐる競争や、クマネズミが営巣中のハワイミツスイ類を襲う可能性も指摘されています。


 21世紀になって新たな問題も認識されるようになりつつあります。「地球温暖化」です。ハワイ諸島は、東のハワイ島からマウイ島オアフ島、カウアイ島にかけて西にいくに従い、標高が低くなっています。ハワイ島には4000mをこえる山があるし、マウイ島にも3000mをこえる山があります。ところが、オアフ島やカウアイ島には1000m台の山しかありません。オアフ島では高所にわずかな種(アパパネとイイウィなど、しかしイイウィは絶滅寸前)が残存するのみです。もし、今後気温が上昇するようなら、感染病のベクターである蚊の分布域がより高い地域に移動し、ハワイミツスイ類の生息域がますます狭くなってしまうことでしょう。この問題に関しては、ハワイだけで解決できる問題ではありません。


ただし朗報もあります。近年の調査によって、一部のハワイミツスイ類では、標高300mで個体群密度を増やしている種がいることが発見されました。これは、ハワイミツスイ類の中に、鳥マラリアに対する耐性が進化してきたことを示しているのかもしれません。


参考文献
Van Riper C et al. (1986) The epizootiology and ecological significance of malaria in Hawaiian land birds. Ecological Monographs 56:327-344.


Atkinson CT, LaPointe DA. (2009) Introduced avian diseases, climate change, and the future of Hawaiian honeycreepers. Journal of Avian Medicine and Surgery 23(1):53-63.


その他
世界で最も絶滅してしまった生物とは・・・


 種の大量絶滅、外来種感染症、地球温暖、保全など多くのトピックが関連する教科書的な事例です。あらためて紹介するほどでもありませんが、個人的なメモとして書き留めておいたということで。