島の法則 Island Rule(3)巨大化した鳥たち

 鳥類もまた島では巨大化する(Island Rule)。


海洋島での鳥類の大型化は同時に、飛翔能力の消失や植物食への食性変化などを伴うのは注目すべきことでしょう。


「鳥が飛ぶ」というのはあたりまえですが、これには多くのコストを払っていると言われています。その一つとして、飛ぶためには体重を軽くする必要があります。植物の葉などを食べ、それらを消化するには、体サイズを大きくする必要があります。多くの草食獣がその他の動物に比べて体が大きいことを考えれば納得できるかと思います(例えば反芻動物では複数の胃をもっている)。


 鳥が飛ぶのは何のためでしょうか。大きな要因として、捕食者から逃れるため、というのがあります。ところが、海洋島のような環境では、元々捕食性の哺乳類がいないことが知られています。そのような環境下では、鳥が飛ぶのをやめて、そのエネルギーを繁殖や採餌行動により多く使っても不思議はありません。さらに、海洋島では、捕食性だけでなく植食性の哺乳類も元々いません。これによって本来草食獣が占めているはずのニッチがすっかり空いていたと考えられています。つまり、捕食者や競争者がいない状態では、本来ならば飛ぶために我慢していた植食性を獲得しやすい環境にあったと言えるでしょう。


 海洋島のように、哺乳類が元来分布しない環境下では、大型で植食性の鳥類がしばしば出現しています。今は絶滅してしまいましたが、ニュージーランドのモアやモーリシャスドードーはその有名な例といえるでしょう。


 モアは、最大体長で3m、体重で200kgをこえたといいますから、巨大化によって天敵はさらに少なくなったことでしょう。しかし、そんなモアを襲う巨大な鳥がいたそうです。


 人が入植する前のニュージーランドにはコウモリをのぞく哺乳類は分布せず、およそ250種の鳥類のうち、その食物網の頂点(最上位捕食者)にはハーストイーグル Harpagornis moorei がいた。体重10-15kg、翼長2-3mにおよぶその巨大なワシは、現存する最大種のオウギワシよりも30-40%増しの重量を誇っていた。さらに、ハーストイーグルは、重量にして15倍のモアを襲っていたという。



巨大絶滅鳥モアを襲うハーストイーグル
This image was published in a PLoS journal (under the Creative Commons Attribution 2.5 license). Bunce M et al. (2005) PLoS Biology 3: e9.



人の入植によって、モアとともに絶滅したハーストイーグルだが、その残された骨からDNAを抽出し分析したところ(ancient DNA techniques)、なんと、現存する中では最小のワシタカであるケアシクマタカHieraaetus の小型種(体重1kg、翼長1.2m程度)と非常に近縁であった。つまり、ハーストイーグルは、ワシタカの小型種が、ニュージーランドという島環境によって巨大化した(重量で10倍以上)顕著な例として考えられる。


文献
Bunce M et al. (2005) Ancient DNA provides new insights into the evolutionary history of New Zealand's extinct giant eagle. PLoS Biology 3: e9.


 捕食性の鳥類でも巨大化した例として興味深い。これにはニュージーランドでの豊富なエサ資源(大小さまざまな鳥類)が関係していたのでしょうか。