ハワイの都心部に見られる在来種

 先週末に研究室のプロジェクトのアシスタントをしている院生の Ph.D. Defense(博士論文公聴会)がありました(参考:Ph.D. Defense の条件)。もうずいぶん公聴会を見てきたのでパターンはわかってきましたが、今回はちょっとした余興もありました。演者が若手の教員3人に(ワンピースとウィッグを使って)女装させて聴衆に紛れさせていたのです。白人のムキムキ男性くらいだとパットも必要ないくらいの似合い様で笑えました。こんな悪ふざけが許されるほどアットホームということ?


 テーマはハワイの鳥でした。


 ハワイ繁殖する在来鳥類の多くは絶滅してしまい、ほとんど都市部で見ることはできません。多くは外来種メジロ、スズメ、ムクドリ、ハト、ブンチョウといった外来種によって占められているわけです。


そんな中にも、ホノルルの都心部で繁殖する在来種の鳥がいます。シロアジサシという、真っ白でなかなか美しい海鳥です。シロアジサシは、海でエサを採りますが繁殖は陸の樹上で行われます。カピオラニパークといった都会の公園の木の股に卵を1個を産んでそこで育てます(巣も作らない)。成鳥もよく町中の上空を飛んでいるのを観察できます。



シロアジサシ(by Gedstrom: Wikipedia


そんなシロアジサシはハワイにだけ見られる固有種というわけではなく、熱帯、亜熱帯域に広く分布しています。ハワイでは、北西ハワイ諸島の他は、オアフ島の南岸(ホノルル周辺)でしか見られません。これまでシロアジサシは、その形態(または分布)から2種、もしくは1種3亜種(または6亜種)に分けられてきました。


2種
Gygis alba(広く分布)
Gygis microrhyncha(マルケサス諸島のみに分布)


1種3亜種
Gygis alba
Gygis alba candida(マルケサス以外の太平洋・インド洋に分布)
Gygis alba microrhyncha(マルケサス諸島のみに分布)
Gygis alba alba(大西洋に分布)


さらに亜種 Gygis alba candida はかつて以下のような亜種にも分けられていた
Gygis alba pacifica(中央、南太平洋に分布)
Gygis alba royana(カーマデック、ノーフォーク諸島に分布)
Gygis alba leucopesヘンダーソン、デュシー島に分布)
Gygis alba monte(インド洋に分布)


 これらの分類的な位置づけはいずれが妥当か、また、ハワイのシロアジサシはどの亜種、個体群に由来するのでしょうか? というのが今回の公聴会の主題でした。


 太平洋の島々から総計209羽の個体のDNAを抽出し(ミトコンドリアDNA)を解析した結果、系統的な種の区分けは必ずしも明確ではなかったようです。また、オアフ島にすむ個体群は、さまざまな地域に由来する遺伝構造をもっており、遺伝的多様性は高いとか。


 オアフ島に住むようになったのはこの数十年のことらしく、なぜ(ハワイ主要島の中で)オアフ島のしかもホノルルという都心部だけで繁殖しているのかは謎です。自然にやってきて定着したという説以外にも、船乗りが雛を連れてきたという(外来種)説もあるらしい。


文献
Yeung NW et al. (2009) Testing subspecies hypothesis with molecular markers and morphometrics in the Pacific white tern complex. Biological Journal of the Linnean Society 98: 586-595.


 そういえば亜種を分ける75%ルール(75% rule)というのを初めて聞きました。もともと鳥で使われた定義みたいですが、どれほど一般性のあるものなのか・・・。