半島効果(Peninsula Effect):半島部に種の多様性勾配はあるのか?

 半分の島と書いて「半島」、また英語の「peninsula(半島)」は「pen(ほとんど)+insula(島)」が語源だそうです。


 実際、基部がくびれた半島は、ほとんど島のようにみえることもあります。ということは、半島でも島と同様な種の多様性パターンを示すとしても不思議はありません。


 1964年、Systematic Zoology 誌*1において、G. G. Simpson は「半島部に生息する哺乳類の種数が、大陸本土の同じ面積における種数よりも少ない」ことに気づき、これを半島効果(Peninsula Effect)と呼びました。彼は半島部での局所絶滅率と半島部への低い移入率によってこの効果を説明しました。実際、1967年のマッカーサーとウィルソンの「島嶼生物学の理論」でも、フロリダ半島バハ・カリフォルニア半島ユカタン半島の陸生鳥類で同様の効果を観察し、移入−絶滅の平衡理論の傍証としています。


さらに1969年、R. E. Cook は同じく Systematic Zoology 誌において、「4つの半島部で鳥類の種数が半島の基部から先端にかけて減少している」ことを報告し、これが「半島効果」の定義として以後多くの研究で踏襲されることになりました。


1987年、D. B. Means と シンバロフ(D. Simberloff)は、半島部での種の分布パターンには、「歴史」「生息地」「ジオメトリー」の三つの要素が関連していることを示唆しました。


(1)歴史による影響とは、過去の気候や地質イベントが種の分布パターンを決めるということで、結果として半島効果を示すことも示さないこともありうる。
(2)生息地の影響は、現状の気候と生息地の状況が種の分布パターンを決めるということで、結果として半島効果を示すことも示さないこともありうる。
(3)ジオメトリーの効果とは、地形的な制約を意味する。移入は常に半島部の基部から先端にかけてのみ起こり、その基部から離れた場所ほど減少する。このとき、移入−絶滅の平衡理論に従って、必ず半島効果があらわれる。



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「半島効果」の検証でしばしば登場するメキシコのバハ・カリフォルニア半島


 2008年、D. G. Jenkisらは多くの研究論文をレビューし、半島効果の有無を検証しました。37例のうち18例(49%)の研究で半島効果が検出されました。また、半島部での分布パターンに及ぼす要因として、それぞれの論文著者が重要だと考えたのは、歴史が18例(49%)、生息地が22例(59%)、ジオメトリー(移入−絶滅平衡)が9例(24%)でした。


さまざまな半島部での「半島効果」の有無


研究番号. 場所:分類群:半島効果の有無:推定メカニズム

  1. 北米:哺乳類:YES:ジオメトリー
  2. バハ・カリフォルニア半島:鳥類:YES:ジオメトリー
  3. フロリダ半島:鳥類:YES:ジオメトリー
  4. ユカタン半島:鳥類:YES:ジオメトリー
  5. 北米:繁殖鳥類:YES:歴史&生息地
  6. フロリダ半島:両生爬虫類:YES:?
  7. バハ・カリフォルニア半島:ポケットネズミ類:YES:ジオメトリー
  8. バハ・カリフォルニア半島:爬虫類:YES&NO:歴史&生息地
  9. カナダ・ウィニペグ湖:オサムシ科甲虫類:NO:?
  10. カナダ・ウィニペグ湖:哺乳類:NO:?
  11. バハ・カリフォルニア半島:哺乳類偶蹄目:YES:歴史&生息地
  12. バハ・カリフォルニア半島:哺乳類食肉目:NO:歴史&生息地
  13. バハ・カリフォルニア半島:ホリネズミ類:NO:歴史&生息地
  14. バハ・カリフォルニア半島:ポケットネズミ類:YES:歴史&生息地
  15. バハ・カリフォルニア半島:哺乳類食虫目:NO:歴史&生息地
  16. バハ・カリフォルニア半島:哺乳類ウサギ目:NO:歴史&生息地
  17. バハ・カリフォルニア半島:トカゲ類:NO:歴史
  18. フロリダ半島:トカゲ類:YES:歴史
  19. イベリア半島:トカゲ類:NO:歴史
  20. ユカタン半島:トカゲ類:NO:歴史
  21. バハ・カリフォルニア半島:サソリ類:NO:歴史
  22. フロリダ半島:サソリ類:No:ジオメトリー
  23. イタリア半島:サソリ類:YES:生息地
  24. 米国メイン州:森林植生:YES:生息地&ジオメトリー
  25. バハ・カリフォルニア半島:チョウ類:YES&NO:歴史&生息地
  26. フロリダ半島:両生爬虫類:YES:生息地
  27. アリューシャン列島:木本植物:NO:生息地
  28. フロリダ半島:木本植物:YES&NO:生息地
  29. アラスカ・シューアード半島:木本植物:NO:生息地
  30. フロリダ半島:チョウ類:YES&NO:生息地&ジオメトリー
  31. イベリア半島:チョウ類:YES:生息地
  32. バハ・カリフォルニア半島:チョウ類:YES:歴史&生息地
  33. ヨーロッパ:哺乳類:YES:歴史
  34. バハ・カリフォルニア半島:アリ類:NO:生息地
  35. 朝鮮半島:チョウ類:YES:生息地
  36. フロリダ半島オサムシ科甲虫類:YES&NO:歴史&生息地
  37. スペイン:スズメ目:YES:歴史&生息地&ジオメトリー


Jenkins & Rinne (2008) のTable 1より


同じ場所で同じ分類群が重複しているのは異なる研究によるもの


約半分の研究で半島効果が見られたものの、三つの代替仮説を相対的に比較するためにデザインされた研究された例はほとんどないようです。また、メカニズムの推定の多くは定性的な記述にもとづくものでした。


研究例の多くが脊椎動物を対象としており、しかも場所は北米大陸に偏っていました。一般性のある規則であることを確かめるには、さらなる(北米大陸以外、脊椎動物以外、または代替仮説を相対的に評価できる)研究が必要とされるでしょう。


文献
Simpson, G.G. (1964) Species density of North American recent mammals. Systematic Zoology, 13, 57–73.


Cook, R.E. (1969) Variation in species density of North American birds. Systematic Zoology, 18, 63–84.


Means DB, Simberloff D (1987) The peninsula effect: habitat-correlated species decline in Florida's herpetofauna. Journal of Biogeography 14: 551-568.


Jenkins DG, Rinne D (2008) Red herring or low illumination? The peninsula effect revisited. Journal of Biogeography 35:2128–2137.

*1:後継誌は Systematic Biology