ハワイ固有コオロギの急速な種分化

 ハワイ諸島は、各島のおおよその形成年代がわかっているため、その値を使って、各島の島固有種の起源を推定することがしばしば行われています(参考)。例えば、現在ハワイ島にのみ分布する固有種は、ハワイ島の形成時期である43万年前より昔には分化していなかっただろう、といった感じです。こういった推定は、厳密にはいろいろ問題があるかとは思いますが、進化は大昔のことなので、使える情報は最大限に使っておきたいということでしょう。


 ハワイ固有のコオロギ、Laupala 属(コオロギ科クサヒバリ亜科 Trigonidiinae)について、ハワイ主要5島に分布する25種の増幅断片長多型(AFLP)を用いた解析を行った。その結果、この属は単系統で、1種の祖先種からハワイで分化したことが確かめられた(系統樹)。また、古い島から新しい島に向かって(カウアイ島→オアフ島→モロカイ島→マウイ島→ハワイ島)新しく種分化が起こっていた(つまり ‘Progression Rule’ に従っていた)。また、ハワイ島の形成時期(43万年前)と現存する固有種数を使って、種分化率を求めると、100万年あたり4.17種という極めて高い値が得られた(節足動物の平均は0.16)。これは、急速な種分化が起こったことで著名なアフリカのシクリッドをのぞけば、動物の中で最高値だった*。


r = [ln(Ne)-ln(Na)]/t


r:種分化率
ln:自然対数
Ne:現存種数(6種)
Na:祖先種数(1種)
t: 分化時間(ハワイ島形成時期43万年前:0.43Myr)


r = [ln(6)-ln(1)]/0.43 = (1.79-0)/0.43 = 4.16688


また、マウイヌイ(マウイ+モロカイ)とハワイ島をあわせた種分化率は1.26、さらにオアフ島+マウイヌイ+ハワイ島では0.8と減少していった。これは、古い島での絶滅種の増加によるものと、古い島では面積の縮小と種の最大収容に近づいているためだろう。


マウイヌイ+ハワイ
r = [ln(11)-ln(1)]/1.9 = 1.262


オアフ+マウイヌイ+ハワイ
r = [ln(19)-ln(1)]/0.43 = 0.796


 Laupala 内の近縁種には、形態的には区別できないが、雄の鳴き声(求愛歌)のパルスでのみ同定できるものがある。また、Laupala では餌や生息場所への特殊化などはほとんど起こっておらず、しばしば別種の雄同士が隣で鳴いている場合さえある。このため、Laupalaの急速な種分化には、雄の鳴き声といった二次的性徴が重要な原動力となっている可能性がある。


文献
Mendelson TC, Shaw KL (2005) Rapid speciation in an arthropod. Nature 433: 375-376.


 このような急速な種分化というのは島ではよく見られる印象があります。湖も陸地の中の‘島’ですから、シクリッドのような淡水魚の種分化もはやいのかもしれません。


*コオロギより高い値がやはりハワイの昆虫に見つかっています。これについては次回・・・