ハワイ諸島におけるオカモノアラガイの進化
オカモノアラガイというのは陸生の巻き貝(つまりカタツムリ)の一種です。一般にモノアラガイと呼んでいるのは淡水生の巻き貝です。
オカモノアラガイ科(Succineidae)は世界中に広く分布しています。飛ぶことも海水にもほとんど耐えられないにもかかわらず、太平洋の海洋島にも多くの種が分布します。例えば小笠原諸島には2固有種、ハワイ諸島には実に42固有種も知られています。
小笠原固有のオカモノアラガイ(小笠原の固有陸貝はすべて天然記念物)
オカモノアラガイのほとんどの種は、完全な樹上性で、葉などに卵を産み、植物上(葉上)の菌や藻類などを食べています。オカモノアラガイの中には、背中の殻が極端に小さくなって、一見ナメクジのような外観を示す種類もいます。世間的な同意は得られないかもしれませんが、個人的には大好きなカタツムリです。
さて、ハワイ産のオカモノアラガイ類は、他の生物群(ロベリア、ハワイマイマイ、カザリバガ、ショウジョウバエ、コオロギ、ハワイメンハナバチなど)と同様に、単一の祖先種からハワイで多様化したのでしょうか?
ハワイ固有の13種に加え、北米、中米、ガラパゴス、フレンチポリネシア、タヒチ、サモア、ニュージーランド、オーストラリア、日本、中国、南アフリカ、ヨーロッパに分布する種などを加えて分子系統解析が行われています*。
その結果、ハワイ諸島に固有のオカモノアラガイ類は異なる二つのクレードに分かれていました。つまり、ハワイのオカモノアラガイ類は少なくとも2祖先種をもとに放散が起こったということです。しかし、それぞれの祖先種がどの地域に由来したのかは、十分には明らかではないようです。
また、一つのグループ(クレード)は、Progression Rule に従っていた(より新しい島に分布する種は比較的最近に分化していた )のに対し、もう一つのグループは従っていませんでした。
さらに一つのクレードにはタヒチ産種が、もう一つのクレードにはサモア産種が含まれていました。つまり、ハワイからタヒチへ、ハワイからサモアへ分散し分化した可能性を示唆しています。これは、ショウジョウバエがハワイで多様化し、その一部が他の海洋島へ分散したという話がありましたが、同じことがオカモノアラガイで起こっていたということです。この分散には、ハワイとタヒチ、ハワイとサモア間を行き来する海鳥による分散の可能性が指摘されていますが、実証するのはなかなかに難しいでしょう。
同じ樹上性のハワイマイマイ類は100種すべてが単一の島の単島固有種(Single island endemics)であるのに対し、ハワイ固有のオカモノアラガイ類は、43種のうち35種が単島固有種で、残りは複数の島に分布します。これも、オカモノアラガイの分散能力が他のカタツムリと比べて高いことを示唆しています。実際、主要6島(カウアイ、オアフ、モロカイ、ラナイ、マウイ、ハワイ)すべてに分布する Succinea caduca という種は、島間での分散が過去にあり、また必ずしも近くの島から順に分散しているわけではないことが分子集団構造の解析から明らかになっています。
Succinea caducaはその成長の速さや、分散能力の高さからか、攪乱の激しい低地の二次林でも見られます。他の種は、奥深い湿った山の樹上に、しばしば多数の個体を見ることができます。しかし最近の調査では、固有43種のうち半分程度の種しか確認できていないそうです。残りの種は、ハワイマイマイ類と同様、絶滅したか、その危機にあるのかもしれません。
*オカモノアラガイには形態から複数の属に分けられていますが、その系統関係は分子系統関係とは全く異なっていたようなので、分類学的に整理される必要がありそうです。