核実験によるサンゴの絶滅

 生物個体群が絶滅する要因として、人為的な撹乱が近年大きなものとなっています。人為的な撹乱の中でも、もっとも大きなものとして核実験があります。



1946年にビキニ環礁で行われた原爆実験(US Federal Government: Wikipedia より)


 ビキニ環礁(Bikini Atoll)では、第二次世界大戦後1946年から1958年にかけて米国によって合計23回の原水爆実験が行われ、日本人の被爆者も出したのでかなり有名です*1。実験後50年たって行われたサンゴ相の調査で、サンゴ礁自体は比較的回復していたものの、実験によって地域個体群が絶滅しその後も復活していない種があることが明らかになっています。



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 2002年にビキニ環礁におけるイシサンゴ類を調査した結果、183種が記録された。核実験前にビキニ環礁で記録されていたもののうち42種が再発見されず、12種が新たに記録された。再発見されなかった42種のうち14種は、以前の記録との分類学的な不一致や2002年の調査努力の不足により記録されなかった可能性がある。しかし、28種については核実験によって(ビキニ環礁の)地域個体群が絶滅し、未だに(他地域からの移入によって)回復していない可能性が高い。28種のうち16種はラグーン(潟湖:環礁の内側の海域)に特化した選好性をもっていたのに対し、12種は広い生息地選好性をもっていた。


文献
Richards ZT et al. (2008) Bikini Atoll coral biodiversity resilience five decades after nuclear testing. Marine Pollution Bulletin 56: 503–515.


 ジェネラリスト種よりもスペシャリスト種の方が個体群の絶滅がおこりやすく、またその回復も困難であるのかもしれません。


 注目すべきは、実験前のサンゴ相の研究が存在することです。つまり、核実験を行うにあたって研究者チームが結成され、実験前の生物相が調べられていたことを意味しています。


 上の写真は、日本から接収した軍艦(水柱の周囲にある黒い物体)などを使って大小約70隻の艦隊を標的とする原爆実験(クロスロード作戦)の瞬間です。これらの実験は同時に、核兵器が生物相に与える影響を調べるものでもあったのです。


 なんと恐ろしい・・・。


核実験前のサンゴ礁研究
Wells JM (1954) Recent corals of the Marshall Islands. Bikini and Nearby Atolls, Part 2, Oceanography. Geological Survey Professional Paper 260-I, United States Government Printing Office, Washington.


その著者の経歴(研究者チームに加わったことが明記されている)


Until about 1950 Wells worked only with fossil corals from the Mesozoic and Cenozoic eras, but through his relationship with the U.S. Geological Survey, which he maintained from 1946 until well after his retirement, he and colleague Storrs Cole were selected to be part of the scientific team assigned to the atomic bomb testing sites in the Pacific: Bikini Atoll in 1947 and Arno Atoll in 1950. From this time forward he began to expand his knowledge of recent corals. Material from these and other expeditions occupied him from 1950 well into the 1980s.


Biographical Memoirs: John West Wells より抜粋

*1:太平洋諸島において、米国はビキニ環礁を含むマーシャル諸島で70回弱、フランスもフレンチ・ポリネシアの島々で200回弱の原水爆実験(もちろん近年よく行われる臨界前核実験ではなく爆発をともなう実験)を行っていたと言われています。