今日のセミナーは、生物学を専攻する学生のための書籍の紹介という内容でした。教科書を一冊丸ごと読むことはほとんどないでしょうが、一般向けに書かれた科学書(いわゆるポピュラーサイエンス)は一冊通して読むことを前提に書かれています。そこで、その一般向けの読み物で生物学に関するお薦めのものをリストアップしようというこころみです。これは、1988年にBioScienceに掲載された記事にもとづく試みらしい。
そこでまず原著論文にあたってみました。教科書とは違い、一般向けに読める書籍でおすすめのもの12冊を米国の大学教員、研究員、その退職たち108人(年齢層は35-85歳)にアンケートをとって、それを集計したものを票の多い順にリストアップしました。
1988年の結果(4票以上のもの)
順位/(投票数)/著者名/(出版年)/著書タイトル(邦訳タイトル)
- (36) James D. Watson (1968) The Double Helix(二重らせん)
- (33) Charles Darwin (1859) The Origin of Species(種の起源)
- (20) Lewis Thomas (1976) Lives of a Cell(細胞から大宇宙へ)
- (15) Rachel Carson (1962) Silent Spring(沈黙の春)
- (10) Stephen J. Gould (1977) Ever Since Darwin(ダーウィン以来)
- (10) Stephen J. Gould (1980) The Panda's Thumb(パンダの親指)
- (10) Aldo Leopold (1968) The Sand County Almanac(野生のうたが聞こえる)
- (10) Ernst Mayr (1982) Growth of Biological Thought
- (8) Thomas S. Kuhn (1970) The Structure of Scientific Revolutions(科学革命の構造)
- (7) Paul DeKruif (1926) Microbe Hunters(微生物の狩人)
- (7) Stephen J. Gould (1981) The Mismeasure of Man(人間の測りまちがい)
- (6) Charles Darwin (1909) Voyage of the H.M.S. Beagle(ビーグル号航海記)
- (6) Lewis Thomas (1974) The Medusa and the Snail(歴史から学ぶ医学)
- (6) E. O. Wilson (1978) On Human Nature(人間の本性について)
- (5) Jacob Bronowski (1965) Science and Human Values
- (5) Richard Dawkins (1976) The Selfish Gene(利己的な遺伝子)
- (5) Paul Ehrlich (1968) The Population Bomb(参考:The Population Explosion:人口が爆発する!)
- (5) Carl Sagan (1977) The Dragons of Eden(エデンの恐竜)
- (5) E. Schroedinger (1956) What is Life?(生命とは何か)
- (5) C. P. Snow (1964) The Two Cultures(二つの文化と科学革命)
- (4) Anne Sayre (1975) Rosalind Franklin and DNA(ロザリンド・フランクリンとDNA)
- (4) E. O. Wilson (1975) Sociobiology(社会生物学)
二十年以上前の調査結果ですが、今でも古典として知られているのがよく選ばれています。最も古いところでいえば、ダーウィンの「ビーグル号航海記」*1と「種の起源」があるでしょう。トップはワトソンの「二重らせん」ということで、分子生物学の隆盛を象徴しています。他には、S. J. グールド、E. O. ウィルソンといった日本でも(翻訳本によって)お馴染みの著者と書籍がそろっているといえるでしょう。
ドードーの歌(原著:The Song of the Dodo: Island Biogeography in an Age of Extinctions)
ハワイ大学の生態学・進化学・保全関係の教員たちがこのたび選んだトップは、クォメンの「ドードーの歌」でした。原著が1996年に出版されたので1988年の調査には含まれていません。この本は島嶼部での種の絶滅や危機に関するものをメインテーマとしているので、ハワイの研究者が良い本だと感じるのも納得です。ただ、David Quammenというサイエンスライターの書籍はかなり人気が高いらしく、知り合いの研究者に聞いても、彼の文章は読みやすいとおっしゃっていました。手元に原著を持っているのでたまにパラパラと眺めますが、いわゆる論文で出てくるような表現は少なく、少しくだけた感じの文章が多いような気がします(参考:ドードーの歌)。日本語翻訳版も悪くはありませんが、原著で読むのとはまた違った趣があるのかもしれません。
その他10以内にランクインしているのは、ダーウィンの「種の起源」、カーソンの「沈黙の春」、ドーキンスの「利己的な遺伝子」など1988年のリストと重複しているのもありました。
他には、マッカーサー&ウィルソンの「The Theory of Island Biogeography」、エルトンの「侵略の生態学」、ワイナーの「フィンチの嘴」など、島の生物学に関連するものもありました。
両方のリストで上位にあった、Aldo Leopoldの「A sand county Almanac」(翻訳版は「野生のうたが聞こえる」)については知らなかったので機会があればチェックしてみたいところです。
欧米でも日本の書籍でも、科学に関する読み物の中には、科学的に信頼できないものも多く含まれています。それを一般の人が判断するのは難しいので、専門家が安心して薦められる一般向け科学読み物リストをつくっておくのは大切かもしれません。
最近は自宅で本を読んでいるとすぐに眠ってしまうので、読むべき本がたまっているのが悩みです。
*1:今度新訳が出るらしいので楽しみです。