島の生物地理学の理論、再び

 マッカーサーRobert H. MacArthur)とウィルソン(Edward O. Wilson)による「The Theory of Island Biogeography(島の生物地理学の理論)」(1967年)の出版から42年、以後の知見をまとめた本が出版されました。



 The Theory of Island Biogeography Revisited(島の生物地理学理論の再検討)


 今日届いたので、まだ読んでいないのですが、パラパラとページをめくると、この分野では著名な研究者による名前が見られます。マッカーサーとウィルソンの本は二人で書いた本ですが、今回の本は26人もがそれぞれの専門分野16章を担当しています。せっかくなので、ちょっとしたコメントを付けて目次をリストアップしてみました。


The Theory of Island Biogeography Revisited(島の生物地理学理論の再検討)

編者:Jonathan B. Losos & Robert E. Ricklefs


Foreword(序言)
 生態学の重鎮、ロバート・メイ卿(Robert M. May)による序文です。マッカーサー以後の群集生態学の理論を文字通りリードしてきた人です。英国王立協会、米国科学アカデミー会員でもあります。


1)Island Biogeography in the 1960s(1960年代の島の生物地理学)
 マッカーサーは早くに亡くなってしまったので、この本を出すには欠かせない生き証人エドワード・ウィルソン(Edward O. Wilson)による章です。当時の理論的背景から、フロリダキースでの野外実験の様子など写真入りで綴られています(マッカーサー、ウィルソン、シンバーロフらの若かりし時の写真あり)。英国王立協会、米国科学アカデミー会員でもあります。


2)Island Biogeography Theory(島の生物地理学理論)
 種数―面積関係をも包括するマクロ生態学を提唱をしたジェームス・ブラウンJames H. Brown:参考 島が大きくなると外来種数も増える)、島の外来種解析のDov F. Sax(参考:島で植物の種数は二倍になる1, 2)、島の法則などのMark V. Lomolinoなど豪華メンバーによる総説。Brownは米国科学アカデミー会員でもあります。


3)The MacArthur-Wilson Equilibrium Model(マッカーサー・ウィルソンの平衡理論)
 島での植物ー昆虫ークモートカゲなどの相互作用を研究してきた Thomas W. Shoener 執筆による章(参考:島が小さくなるとクモの密度が増加する)。彼自身、米国生態学会マッカーサー賞(Robert H. MacArthur Award)を受賞しているので本章を執筆するには適任なのでしょう。米国科学アカデミー会員でもあります。


4)A General Dynamic Theory of Oceacnic Island Biogeography(海洋島の生物地理学の理論)
 生物地理学の専門誌「Journal of Biogeography」の現編集長で、「Island Biogeography」の著者でもある Robert J. Whittaker らによる総説。すでに似た内容が Journal of Biogeography誌上に発表されており、長くてまだ読み切れていませんが、海洋島の歴史や種分化を考慮にいれた理論体系の再構築を試みているもよう。


5)The Trophic Cascade on Islands(島の栄養カスケード)
 島環境での捕食者の消失による栄養カスケードを研究してきた John Teborgh による総説(参考:島で外来捕食者を駆除する時の注意点:‘mesopredator release’に関連して)。具体例を中心に解説しているので、読みやすそう。米国科学アカデミー会員でもあります。


6)Toward a Trophic Island Biogeography(栄養段階を考慮した島の生物地理学)
 群集生態学の理論をリードしてきた Robert D. Holt による総説。もちろん数式入りで難しそう。


7)The Theories of Island Biogeography and Metapopulation Dynamics(島の生物地理学理論とメタ個体群ダイナミクス
 メタ個体群研究で著名な Ilkka Hanski による総説。


8)Beyond Island Biogeography Theory(島の生物地理学理論をこえて)
 熱帯林の断片化による影響を研究してきた William F. Laurance 執筆による章。


9)Birds of the Solomon Islands(ソロモン諸島の鳥類)
 ウィルソンとともに平衡理論を野外実験で実証したシンバーロフ(Daniel Simberloff)らによる総説。ソロモン諸島は、ダイアモンド(Jared Diamond)らが鳥類の分布パターンの研究を行っていた場所ですが、シンバーロフが執筆しているのがちょっと興味深い(しばしばダイアモンドvsシンバーロフの論争があったので)。島の生物地理学に重要な貢献を果たしたダイアモンドがこの本に執筆していないのは少し残念です。


10)Neutral Theory and the Theory of Island Biogeography(中立理論と島の生物地理学理論)
 群集の中立理論を提唱した Stephen P. Hubbell による総説。群集の中立理論についての本は最近邦訳されたので、そちらを先に読んだ方がいいのかな・・・。


11)Evolutionary Changes Following Island Colonization in Birds(鳥類の島定着後におこる進化)
 島の鳥類における進化を研究してきた Sonya Clegg による総説。


12)Sympatric Speciation, Immigration, and Hybridization in Island Birds(島の鳥類における同所的種分化、移入、交雑)
 ガラパゴスダーウィンフィンチの進化研究で著名なグラント夫妻(Peter R. Grant & B. Rosemary Grant)による総説。最近ダーウィン・ウォーレスメダルや京都賞を受賞したし、英国王立協会、米国科学アカデミー会員でもあります。


13)Island Biogeography of Remote Archipelagoes(孤島の生物地理学)
 ハワイのクモ類の群集研究、島の群集生態学で知られる Rosemary G. Gillespie らによる孤島の群集進化についての総説(参考:群集が収斂する:ハワイのアシナガグモ)。


14)Dynamics of Colonization and Extinction on Islands(島における移入と絶滅のダイナミクス
 本書の責任編集者の一人である Robert Ricklefs 執筆による章。彼も最近米国科学アカデミー会員になったようです。


15)The Speciation-Area Relationship(種分化ー面積関係)
 カリブ海のアノール(トカゲ)類の系統進化や生物地理の研究で著名な Jonathan B. Losos らによる、島の面積と種分化の関係の総説(参考:島が大きくなるほど種分化がおこりやすい)。Losos は、Ricklefs とともに本書の責任編集者です。


16)Ecological and Genetic Model of Diversity(多様性の生態学・遺伝学的モデル)
 種数と遺伝的多様性の関係について研究を行ってきた Mark Vellendらが執筆した章。


 教科書というよりも、最近の知見をまとめた総説集という感じです。どうも、(私自身)英語で本を読み通すことができないようなので、個々に拾い読みするには良いかもしれません。何よりプリンストン大学出版のソフトカバー版であるのも手頃でしょう。


*全然関係ないですが、著者にRobertが3人、Rosemaryが2人。西洋系のFirst nameは多様性が低い気がします。日本ではオレオレ詐欺というのが問題だけど、米国ではロブロブ詐欺とかあったりして・・・。