種のプール

 群集生態学において「種のプール(species pool)」という概念はとても大切です。いろいろな場面で重要になってくるので整理しておきます。


 島嶼生物地理学でも、島に移住してくる種というのは、島から近い他の陸地の群集、つまり「地域の種プール(regional species pool)」から供給されることをマッカーサーらは仮定していました。


この地域の種プールのサイズが大きれば(地域の種数が多ければ)、島に移住してくる(潜在的な)種数が増えることになります*1。例えば、東京湾に生物が全くすまない埋立地の島ができたとします。ここに移住してくる種というのは、東京湾近郊の群集(地域の種プール)から供給されます。また、島に限らず、陸地内に突如としてできた空き地(かく乱などで生じた場所)にやってくる種を考えても同じことです。


 つまり、小さな島の群集や、森林パッチの群集といった、比較的小さな単位での群集を局所群集(local community)と呼びますが、この局所群集の種数というのは、地域群集の種数に強く影響をうけるということです。


 ここで、横軸を地域の種数、縦軸を局所の種数をとると、その関係は通常正の相関関係を示します*2。ただし、当然のことながら、地域種数=局所種数の傾き1の直線より上側(左側)にくることはありません。


 
 なお、地域の種プールと同様の考え方として、メタ群集(metacommunity)という概念があります。これは、種の移出入が可能な局所群集同士の集まりを意味します。マッカーサーらの島嶼生物地理学の理論では、生物がいない島に移住してくる種を考えていましたが、すでに種が充満した場所にかく乱によって空き地ができた場合では、それを埋める種が同じ局所群集からの場合と、他の局所群集(つまりメタ群集)からやってくる場合があります。これは、Stephen P. Hubbell が統合中立理論(The unified neutral theory of biodiversity and biogeography)を提唱する中で述べた概念ですが、それ以降メタ群集という概念は盛んに議論されつつあるようです。


参考文献
群集生態学


メタ群集と空間スケール (シリーズ群集生態学5)


群集生態学―生物多様性学と生物地理学の統一中立理論

*1:普通の日常生活におきかえて例えましょう。複数人で稼いだお金を共通の銀行口座にプールするという表現がよく使われます。この口座にプールされた金額が大きければ大きいほど、個々の人が引き出す(可能性のある)金額が増えることと基本的には似ています。

*2:時に飽和曲線を示すことがありますが、この場合、局所群集内でのなんらかの種間相互作用が働いている可能性があります。