島面積と種数の関係:メカニズムのまとめ

 小さな島より大きな島の方が種数が多く、大陸から遠く離れた島よりも近くの島の方が種数が多い(参考:種数面積関係)。この現象を説明するためにマッカーサーとウィルソンは種の移入(Colonization)*1と絶滅(Extinction)*2を考慮して平衡理論を提唱しました(参考:島の生物地理学の理論:ウィルソンによる回想)。改めて詳細な定義と平衡理論以外の仮説についてもノートとして整理しておきます。


 ひとつの島にいる種の数は、新しい種がやってくる確率とすでにいる種が絶滅する確率のバランスがとれた結果だと考えます。ある島に種がほとんどいない場合、新しくやってきた種はほぼすべてが新しい種ということになります。しかしすでに多くの種がいる島の場合、やってきた種が新しい種である可能性は低いでしょう。つまり、すでに島にいる種の数が多くなるほど、新しい種が移入してくる確率は低くなってくるというわけです(移入率は種数とともに減少するカーブ)。


一方、どの種にも絶滅する可能性はあります。種の数が多くなるほど、多くの種がいつかは絶滅するでしょう。したがって種数が増えるほど絶滅する確率は高くなります(絶滅率は種数とともに増加するカーブ)。ひとつの島にいる種数は、移入率と絶滅率の交点にあり、種数は変わらなくても、その種構成はつねに変わっていくことになります。

 
また、種はもともといる生息場所(大陸など)から近い島の方が遠い島よりも移住しやすいので、移入率は遠くの島よりも近くの島で高くなります。また、種は小さな個体群ほど絶滅しやすいため、大きな島よりも小さな島の方が絶滅率が高くなります。これが、島への移入率と島での絶滅率を考慮したマッカーサーらの平衡理論です。



生態学の教科書に出てくるいつもの図


 このマッカーサーたちが提唱した平衡理論だけが、島の種数ー面積関係を唯一説明するモデルではありません。他にもいくつかの考え方があります。


・サンプリング・エラー(Sampling error):大きな島ほど調査がよくなされている可能性があります。つまり、調査努力が島間で異なっている場合に島面積と種数の間に見かけの相関関係が生じる可能性です。これは非生物的(人為的)な要因の可能性を指摘した考え方です。


・ランダム分布(Random placement):各種個体がランダムに分布していると仮定すると、そこから抽出したサンプル(つまり島)が小さいものよりは大きいものの方が多くの種を含む可能性があります。これも非生物的な要因の可能性を指摘した考え方です。


・生息地の多様性(Habitat diversity):特定の生息場所(Habitat)にしか生息しない種も多くいます。つまり、大きな島ほど多様な生息場所が含まれるため、多くの種が生息できる可能性があります。


・種分化ー面積関係(Speciation-area relationship):大きな大陸や隔離された島では、移入よりも種分化が重要になってくる可能性があります(参考:島が大きくなるほど種分化がおこりやすい)。大きな島ほど種分化しやすい環境条件が多いという意味では、生息地の多様性と関連している場合もあります。


・種ーエネルギー関係(Species-energy relationship):種数は島の生産性(年間純一次生産量)とともに増加するという考え方です。


・エッジ効果(Edge effect):島の面積に対する島の周囲長の割合は、小さな島ほど増加します。島内と周囲(海岸線)の環境条件は異なるので、島面積ー種数関係に与える効果が考えられます(参考:島が小さくなるとクモの密度が増加する


・小面積効果(Small-island effect):一定面積以下の島ではある種の生物の生息が不可能な場合があります。こうした極端に小さな島では、正常な種数−面積関係が見られないこともあります。


・ターゲット面積効果(Target area effect):小さな的(まと)よりも大きな的の方がダーツが当たりやすいように、大きな島の方が移入が頻繁におこる可能性があります。特に、個体数の多く移動性の高い種は大きな島にたどりつきやすいかもしれません。この島面積にともなう移入率の増加は、島の生息場所の多様性の増加や絶滅率の減少とは独立に考えることが可能です。


・撹乱(Disturbance):小さな島の方がより頻繁に撹乱を受ける可能性があります。ただし、逆に大きな島の方が撹乱をより受けやすい場合もあります(参考:島が大きくなると生態系機能も変化する)。


参考文献
Connor EF, McCoy ED (2001) Species-area relationships. Encyclopedia of Biodiversity vol 5: 397-411. (PDF)


MacArthur RH, Wilson EO (1967) The Theory of Island Biogeography


Whittaker RJ, Fernandez-palacios JM (2007) Island Biogeography: Ecology, Evolution, and Conservation. Second Edition. Oxford Univ Press


参考ページ Wikipedia
種数面積関係


 これまで「島の面積が大きくなるほど移入率が増加する」(ターゲット面積効果または受動サンプリング)というのは、マッカーサーらが平衡理論の一部として提唱したものと思っていました。しかし改めて復習してみると、マッカーサーらが直接明言はしていませんでした。彼らの理論の発表後、多くの研究者によって理論の補填や改訂が試みられてきたと言って良いでしょう。

*1:ここではもちろん、人による移入ではなく、自然に種が島に移住してくることを意味しています。

*2:ここでは、人や外来種による人為的な絶滅を意味していません。