面積と密度の関係:密度補償はおこるのか?

 面積が増加すると種数が増加します。当然、ある種の個体数も面積とともに増加することが予想されます。では、ある種の個体群密度(面積あたりの個体数)は、面積が増加するとどうなるのでしょうか。増加するのか、減少するのか、それとも一定なのか。


 マッカーサーとウィルソンの平衡理論では、ある種の個体数が島面積に対して線形に増加すること、言い換えれば、密度は島面積の増加に対して一定値のままである(つまり面積とは独立である)と考えられている感じがします。


しかし、群集レベルの個体群密度(あるグループの種全部の個体数を面積で割った値)がいずれの面積でも一定であると想定すると、種数は面積とともに増加するので、各種の密度は面積とともに減少してしまいます。


例えば、大陸と小さな島で、ある種A(同じ種もしくは近縁種)の密度を比較するとします。もし、Aが属する群集レベルの個体群密度(あるグループの種全部の個体数を面積で割った値)が一定とするなら、Aは大陸より小さな島で密度が高くなるはずです。なぜならば大陸よりも小さな島の方が、群集内の種数が少ないからです。このように、大陸よりも島での密度が高くなる現象を「密度補償(Density Compensation)」と呼んでいます。島では種数が少ない分、密度を増加させるという意味で付けられのでしょう。つまり密度補償が一般的ならば、ある種の個体群密度は面積とともに減少するということになるでしょう。



種数ー面積関係に、群集レベルでの個体群密度一定を仮定すると、密度補償がおこるという仮説


 密度補償の有無については、当初、マッカーサーやダイアモンドらによって島と大陸の鳥類の密度を比較することで検証されました。


 鳥類や島に限らず、密度補償は普遍的に起こっているのでしょうか?


 これまで発表されてきた論文から、287種の動物個体群、21の動物群集について、面積と密度に関するデータを収集しメタ解析を行った。調査場所は、森林のパッチ面積、島の面積、寄主植物の生育/耕作地面積などを含み、鳥類、哺乳類、昆虫、クモ類、甲殻類といった分類群を対象とした。


結果、個々の種に関しては、面積に対して個体群密度は増加した。つまり、密度補償は一般的ではなかった。ただし、分類群によって関係は有意に異なっており、昆虫類では面積に対する密度増加の傾きは鳥類よりも大きく、哺乳類ではその傾きはほとんどゼロに近かった。


しかし、群集レベルの個体群密度(あるグループの種全部の個体数を面積で割った値)では、面積に対して減少していたが、傾きは有意にゼロから異ならなかった。また、節足動物(昆虫類、クモ類、甲殻類)と脊椎動物(哺乳類と鳥類)の間には、面積と密度の関係に有意な違いはなかった。つまり、群集レベルの個体群密度は面積に対して独立で、密度補償がおこる前提を支持していた。ただし、群集レベルでの結果は、解析したサンプルサイズが小さいことから生じた可能性は否定できない(第二種の過誤の可能性)。


 動物各種の個体群密度は、面積に対して増加する傾向にあり、密度補償は一般的ではないのかもしれない。むしろ、面積の大きな場所では、(動物にとっての)資源が多いために密度が増加しやすいのかもしれない(資源集中仮説:Resource Concentration Hypothesis)。


Connor EF et al. (2000) Individual-area relationships: the relationship between animal population density and area. Ecology 81(3):734-748.


 読み応えのありすぎる論文でずいぶん時間がかかりました(完全理解できていないかもしれませんが)。


 資源集中仮説は元々、植食性昆虫にとって寄主植物のパッチ面積が大きい場所ほど密度を高めやすい現象を説明するために示唆されたメカニズムで、以後その他のパターンを説明するために用いられてきました。


上の解析では、境目の明瞭ないわゆるパッチ面積と、任意に設定した面積の両方が含まれているため、パターンを説明するメカニズムは別々に論じた方が良いという意見(Gaston et al. 2002)にも納得できます。


また、実際の「島」だけではなく、植食性昆虫にとっての寄主植物という「島」も含むため、当初マッカーサーやダイアモンドらが想定し検証しようとしたような「密度補償」を否定するほどではないでしょう。


 海洋島のような種数の少ない島では、密度補償によってさまざまな資源を利用するような種が現れ、重要な生態的な役割を果たすようになった可能性も指摘されています(参考:海洋島では ‘Super Generalist’ が進化する)。


また、カリフォルニア湾の島々では、小さい島ほどクモが高密度になることが知られていますが、これは小さな島ほど海からの打ち上げ物によって多くの餌が発生していることに起因するものでした(参考:島が小さくなるとクモの密度が増加する)。


参考文献
MacArthur RH, Diamond JM, Karr JR (1972) Density compensation in island faunas. Ecology 53: 330-342.


Gaston KJ, Matter SF (2002) Individual-area relationships: comment. Ecology 83(1): 288-293.


Olesen JM, Eskildsen LI, Venkatasamy S (2002) Invasion of pollination networks on oceanic islands: importance of invader complexes and endemic super generalists. Diversity and Distribution 8: 181-192.